涙で充血した真っ赤な目で彼女が刃物を握っていて、更にそれが今まさに自分に向けられているのだとしても、俺は死なないと思う。殺されないと思う。
もう信じられないってヒステリックに大声を上げてじりじりと迫り来る彼女に、もうこんなこと絶対にしない、愛してるのはお前だけなんさ、って。嘘吐きの常套句を吐くのにはもううんざりだった。
こんなにも、待ち望んでいるっていうのに。

彼女は酷く弱くて、脆い。故の情緒不安定。感情に任せて刃物を握るなんてことは良く在った。でも彼女の左脳は利口なようで。理性のストッパーがいつだって彼女の溢れる感情を寸でで受け止めた。その度にいつも、またか、ああ、またか、って。ぼろぼろと大粒の涙を零して震え出す両手から刃物を落として崩れ落ちる。これを繰り返し繰り返ししてるようじゃ駄目なんさ、ずっと遊んでなきゃならなくなる。
早く殺して欲しいのに。流れる血液が君のと同じ色だって、薄れる意識の中で確かめたいっていうのに。仕返しだって笑って、二人で沈んでいきたいっていうのに。


まずは左脳から壊してみるか。


仮想心中
080916かける


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