今日も彼が居る。きちんと揃えられた靴を見てリビングへのドアを開けた。丸いクッションを枕にしてすやすやと穏やかな寝息をたてる彼が居た。

「制服しわになっちゃうよ」

色の白いほっぺたをつまんで軽く伸ばしてみると、眉根が寄せられる。ごろんと反対側に寝返りをうった。彼は寝起きが大変に悪いからなかなか起きようとしないのだ。彼が起きるまでに晩ご飯の用意を済ませてしまおう。彼は異常なくらいよく食べるから、ちゃちゃっとパスタを作ることにした。
煮えるお湯に塩とパスタを入れたところで、彼が起きてキッチンにやって来た。冷蔵庫を開けてオレンジジュースを2つのコップに注ぐと片方をわたしに差し出した。

「何のパスタですか?」
「たらこスパゲティ」
「ボンゴレの方がよかったです」
「あさり買ってないもん」

えーって文句を言ってわたしの肩にあごを置いた。パスタそろそろ茹で上がったんだけどな。けっこう邪魔だけど、のかしたら拗ねちゃうしなあ。迷っている間にもパスタはぐらぐらと煮えるお湯の中で漂っていて、どんどんふにゃふにゃになっていくんだろうなあって、ぼーっと考えた。
彼は諦めたのかフォークとコップを2人分と、麦茶を持ってリビングに戻った。やっとのことでパスタをお湯からあげて、バターとたらこの中身と一緒に絡めた。お皿山盛りに盛ったたらこスパゲティを先に彼のところに持って行った。後から自分でわたしの分を運んでテーブルに着いた。お腹ぺこぺこの彼がわたしが来るのを待ってくれていて、5つも年上なのに、こういうところにどきどきする。困るのに。アレンのことほとんど何も知らないのに、わたしだけアレンに夢中になってて馬鹿みたい。

「いただきまーす」
「うん、召し上がれ」

馬鹿みたいでいやなんだけど、わたしは大人だから、高校生に余裕の無いところは見せられない。わたしの家に住み着いてわたしの家でご飯を食べて寝る。彼がわたしに寄り掛かっているように見えるのに、最初から、彼が居ないと駄目になってしまっているのはわたしの方で。少し軟らかいパスタをフォークに巻き付けた。くたくたと力無く絡み付く姿が、まるでわたしみたいだと思った。


お風呂から上がってベランダに出ると、昼間の熱がまだ残っていて案外に暑かった。煙草に火を着け煙を燻らせていると彼がベランダにひょっこりと顔だけ出した。

「お風呂入ってきます」
「どうぞ」
「早く髪の毛乾かさないと風邪引いちゃいますよ」
「はいはい」

彼の言う通りに煙草の火を灰皿に押し消してリビングに戻る。彼はわたしが煙草を吸うのを見ていつか言っていた。
僕は吸いませんけど、特に嫌いっていうわけじゃないです。
誰が煙草を吸っていたんだろう。彼の隣で。ぐるぐると渦巻く汚い感情なんか無くなってしまえばいい。アレンに溺れるだけ後に苦しむことになるんだろう。





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