晴れてもいないし雨でもない、曇った空。暖かくもないし寒くもない、カーディガンを羽織ると少し暑いような、午後。何もかもが中途半端な日にふらりと立ち寄ったアンティークショップで、始まる。知らなかった、毎日が少しずつ色味を変えていくことを。




カラン カラン

軽いドアに付いたベルはゆらゆらと揺れながら、懐かしいような音色でわたしを迎え入れた。薄暗い店内には、一応はディスプレイしてあるのだろう、ほこりを被ってしまった商品が一面に並んでいた。ひょこひょこと少しずつ顔を覗かせるそれらは全てセピア色のように見えて、どこかしら鈍い輝きを秘めているように見えた。

店員さんは居ないのだろうか、どこにも人の気配が感じられない。
たまたま目に留まっただけの、見覚えの無い店だった。控えめに掲げられた目新しい看板と古びた外装のアンバランスさに、何故か心惹かれたのだ。
「骨董 アンティーク」
なんだか面白そうだと思った。元々、古びたものに心惹かれる性格ではあるのだが、アンティークだとかそういった高価なものに興味は無い。ちょっと店内を物色して、安いアクセサリーでも買おうかと思ってドアを引いた。それがほんの数分前。


ちくたく ちくたく

懐中時計、だろう。ずっしりと重みのあるそれに、わたしは夢中になって見入っていた。ちくたくと正確に進み続ける2本の針だけがきらきらと光っているように見えて、なんだか不思議な時計だった。


「 それ、高いんさ」

時計が時を進めていく音だけしか聞こえなかった店内に、冷たい空気に溶けていってしまいそうな、穏やかな声が響いた。驚いて反射的に声のした方を振り返ると、セピア色したこの場所の中で、柔らかく輝くオレンジがあった。
右目には眼帯をしていて、片手にハードカバーの本、もう片方の手にはアイフォンを持っている。分厚い本をぱたんと閉じて、机に乗せていた両足を下ろすとこっちに近付いて来た。
変な人、もしかしたら、危ない人。そう認識する間も無かった、気付いたら隣に立っていて、物珍しそうにわたしの顔を覗き込んでいたからだ。彼は何となしに口を開く。

「おじょーさん、そんなんに興味あんの?」


光るほこりまみれ
110703かける


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テーマ「人外ファンタジー」
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