日当たりが良いとは言えなかったけど、いつだって温かい気持ちにさせてくれたあの部屋は、どこへ行ってしまったのだろう。カーテンはぴっちりと閉められている。窓が開かれることは滅多にない。ドアにはチェーン。毎日通っていたあの部屋は、どこに。


ドンドン
ドンドン

乱暴に叩かれるドアに浴びせられる罵声。借りた金は返せ、居るのは分かってるんだ。何回聞いてもやはり、荒々しくドアを叩かれる度に、いつかドアが開かれてしまうのではないかと杞憂してしまう。ワンルームの小さな空間に一緒に居るはずの彼は毛布を被ってベッドに座っている。わたしと彼。くっきりと二分されていた。


「こんなの、もう慣れちゃいましたよ」
「あちらも仕事ですし」

困った風だったけれど、彼はいつだってわたしを安心させようと笑っていた。ふわふわと柔らかな雰囲気が大好きで、彼とずっと一緒に居たいと願った。毎日ベランダからお互いの部屋を行き来して、アレンの部屋が煩い夜はわたしの部屋のベッドで一緒に眠った。狭いシングルベッドの中に子どもみたいに潜り込んで、静かに笑った。

アレンって呼べば、いつだって笑ってくれたのだ。笑わなくなってふさぎ込む彼。何が彼を変えてしまったのか。否、変わってなどいない。もとより彼は繊細な人間で、決して強い生き物などではなかった。愛するものを自信の手で守ろうと、いつだって彼は必死になって、無理をして、疲れ切っていた。無理をしていたのだと、思う。そして無理をさせてしまっていたのがわたしなのだろう。アレンも辛くて、苦しかったに違いない。
もう何回目か分からない。考えては罪悪感に胸を侵されていくだけ。ゆっくりと負の感情に浸っていって、辿り着けるのはいったいどこなのだろう。


「 あれん」

久しぶりに彼の名前を呼んだような気さえした。こんなにもなまめかしく、感情がそのまま喉から現れたように人の名前を呼んだのは初めてだ。
彼は顔を上げない。
もう一度名前を呼んだ。

「 あれん」

きらきらと輝く彼の双眸は、もしかして涙を流すのかもしれないと思った。辿り着ける場所はどこにあるだろう。もしかしたらそんな場所は無いのかもしれない。でも、このまま彼が消えていってしまうのを見守るなんて絶対にいけない。さらりと流れる髪の毛をそっと撫でると、大袈裟に肩が跳ねた。

「どこでもいいよ?」
「アレンの好きな所なら」
「ここから、逃げよ?」

真っ白かった彼の心で殖えたものなんて、涙を流せば綺麗に洗い流されてしまうから。アレンが辛い時は傍に居る。悲しい時は、わたしに彼を慰められるだけの言葉は無いから、一緒に泣こう。一生笑って過ごす生活に憧れる毎日よりも、ずっと彼との思い出になる。苦しい日々だって後で笑い飛ばせるように、今はたくさん泣いていいのだと彼に言うと、肩に伝わる暖かさにわたしも泣いてしまう。


無菌室で繁殖
t.少年チラリズム
100611かける


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