久しぶりに降る雨は冷たく、濡れた髪が肌に纏わり付いて俺を苛立たせた。探索部隊の差し出した傘を払いのけて汽車に乗り込む。一刻も早く帰ろうと思った。濡れたままのシャツで、あいつの部屋まで走る。水を含んだ団服は部屋の入り口で脱ぎ捨ててきた。


建て付けの悪いドアを力づくで開けると、中には見馴れた白いベッド。あいつの姿。見ない顔の探索部隊。きょろきょろと落ち着き無く目を動かしていて、俺と目を合わせないようにしているのだと分かる。ベッドの下に散らばった服を大慌てで着込んでいくその手を掴むと、ひっと声を上げる。手に力を込めると細い目には涙が滲み、許して下さいすいませんでしただかなんだか叫んでやがった。

「ごめんなさい、ユウっ…もう、離してあげて!」

男の太い腕がもう少しで折れる状態にまで曲がっていた時、目の前の男越しに届いていた声が涙まじりになった。男の腕を離してやるとそのままドアから姿を消した。二度と目の前に姿を現すことは無いだろう。

大きく開け放たれたドアを閉めて緩慢な動作でベッドに目をやると、俯いて耳を塞ぎながら白いシーツに染みを作っていく姿があった。がたがたと小刻みに震え、嗚咽まじりに慟哭する。
散らばったままのこいつの服を踏み付けて歩いていくと、泣き声は抑えつけたのか、俺が部屋に入って来た時の一瞬のような、静寂が帰ってきた。


「 おい」

びくりと大きく肩を揺らしてそれ以外の反応が無い。苛立ってその長い髪を掴んでやると痛いと言って顔を上げた。途端に俺と目を合わせてしまい、しくじってしまったという感情と不安の入り混じった表情を一瞬だけ見せて、また俯いた。俺がこいつを殺してやりたいと思うのはこういう時だ。
いっつも馬鹿みたいに俺の目を見て話す割には、こういう時に自分から視線をさ迷わせる。


「俺はお前なんか居なくたって構わない」

言うが早いかブーツの踵が音を立てる。俺にはいつもと変わらない音、今のお前には何の音に聞こえる。
ブーツの鳴らす音。
関係が断ち切れるなんか生温い。

ドアノブに手をかける直前になってようやく、裸足で何も身に着けないでベッドから下りてきたかと思えば縋り付いて泣く。泣く。腰に抱き着いては力無く足元まで滑り落ちていき、足に上半身を絡ませるようにして泣いて叫んで縋った。

ごめんなさい
もうしないから
ゆるして
いかないで

何回うそぶいた言葉で何回おどる行為なのか。よく恥ずかしげも無くそんなこと言えるもんだなと足元の女に視線をやるとすぐに気付いて、涙やらでぐしゃぐしゃの顔を歪ませて笑った。上手に綺麗に笑えたとは言えないが、俺が女に泣かれることをうざったく思っていることを知っているからなんだと思うと、少し気持ちが良い。俺のためなんだと思うと、喉元を舐められるような感覚が沸き上がった。

「寂しかったの…許して、ユウ…」

飽きずに懲りずにしくじっては許しを乞う。酷く滑稽な女で、そんな姿を愛しいとすら思う自分もきっと同じなんだろう。

冷たく固い床に膝を付くと女と目が合った。瞼に唇で触れて、赤く柔らかい唇のラインに指を沿わせた。唇の端から端までゆっくりと動かしていき、進んだ先の口角から人差し指を侵入させた。温かい口内をまさぐっていると自然に絡み付いた舌、愛しいと思う。
てらてらと光る指は、女が恍惚とした表情で舐め取った。一心なその表情を見ていると、またあの感覚が。

白くて華奢な肩を力任せに押してやると、当然女は床に転がった。赤い唇に、噛み付くようなキスをした。優しさなんか欠片も含んじゃいない、ただ本能を揺り動かされる。うっすら滲んだ血は舐め取ってやった。
ブーツの鳴らす音。
関係が断ち切れるなんか生温い。


「居なくなったら、死んじゃう…」


居なくなる前に殺してやるよと嘘を吐いて、任務報告の催促が鳴り止まないゴーレムを壁に投げつけた。


透徹の排除
110206かける


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