「 ん」
「え?」
「…ん!」
「みかん剥けって?」
「ん」

こたつに置いてあったみかんをわたしに剥かせている間に、神田はまたこたつ布団を肩まで引っ張ってぬくもっていた。くっそー。肩とか腕とか寒い。だいたい、ん!ってなんなんだ。それで伝わるわたしもなんか嫌だな。
こたつから出てだんだん冷えてきた指先が、みかんの汁でべとついてしまって、ティッシュを何枚か取って擦ったけどなんか白く粉っぽくなってしまった。悩んだ挙げ句こたつから抜け出ることを決断した。

「寒い寒い!」

洗面所よりも近い台所にダッシュして水がお湯になるのを待った。台所にはエアコンの暖気が届いておらず、スリッパを履いた足元から冷気がじわじわと伝わってきた。
台所の向こうで神田は、わたしが剥いたみかんの白いやつを細い指で馬鹿みたいに丁寧に取り除いているところだった。普段の態度からは想像できない細かな作業に見入っていると不意に彼はこちらを振り向いた。視線でも感じたのか。

「お茶」

喉の渇きを感じていたらしい。いよいよ暴君の物言いに腹が立ってきているわたしは、彼の手元にあった視線を蛇口から出しっぱなしにしていた水に戻した。あ、お湯になってる。あったか〜。

「おい」
「…」
「お茶」
「…おい!」
「…」

そろそろ諦めて自分で台所に向かってきた。こたつから台所までの数歩は短くても、神田の足取りはかなり重そうだ。

「てめぇ…」

オフホワイトのセーターの袖口から覗く白い手。さっきみかんの白いやつを取っていた手。…が、急に伸びてきて、ほっぺにはひやっとした感覚。

「冷たい!」
「手があったまんねぇんだよ」
「冷たい冷たい!」
「うるせぇ」

神田の手が温かくなっていて、わたしのほっぺはだんだんと冷えていくはずなのに、なぜかぽかぽかと火照っていた。白い指先は長くて、わたしのほっぺを覆ってもまだ余っていた。余った冷たい指先が耳に触れている。心臓が、どくどくどくどく鳴っていた。


「 お茶」
「…はいはい」

ポットに水を入れてボタンを押す。お湯が沸けたら、緑茶でいいか。神田が好きなお煎餅も出してあげよ。
いい感じに陽が出てきたから、そろそろ初詣にでも誘ってみようかな。寒いって言うんだったらマフラーを巻いてあげたらいいし、手が冷たいって文句言うんだったら、手つないで歩けばいいや。


二人の温度
110101かける

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