3学期に入って最初のホームルームで席替えをした。窓側の列の1番後ろの席は日当たりも良くてなかなか気に入っていた。

すーすー。
すーすー。
毎時間聞こえてくる穏やかな寝息は隣の席の女のものだったが、俺はそいつの名前を知らなかった。いや、覚えていなかった。クラスの中で目立ちも浮いてもいない女は、周りからの印象も、良く寝ている子という普通のものだった。

そんな女に興味は毛ほども沸かなかった。沸かなかったが、授業の後半になってこの女がむくりと起き上がるところを見るのは、いつしか待ち遠しいような気持ちになっていた。まだ寝ぼけたままの顔で黒板を見て、慌てて眼鏡をかけ直す。ブラウンの縁から覗く目はいつもきょろきょろとしていて、少しだけ面白かったからだろう。
急いで手にとるシャープペンはよくその手から滑り落ちて、俺の椅子の下まで転がってきた。それを拾って渡してやると、少し恥ずかしそうに笑みを浮かべる。

「へへ、いつもごめんね」
「…ふん」

いつもここで会話は切断される。教室から見える冬の景色は外に居る時よりも数段寒そうに見えた。そろそろ落ち着いたペースでシャープペンの芯が滑る音が聞こえてきて、眠くなる。灰色の雲から差す光の柔らかな陽気を感じていると、まどろみの中に隣の女のことが思い浮かんだ。シャープペンの音が聞こえなくなったから、また寝てしまったのだろうか。手に持っていただけのシャープペンをノートの上に転がして頬杖をついた。
次にこいつがペンを落とした時は、いい加減何か言ってやろうか。気をつけろよ、とか。席替えしてからまだ4日しか経ってないのにもう10回は拾ってるな。ほんと、面白いやつ。わたわた忙しそうにしている様子を容易に思い浮かべることができて、そこで少しだけ自分が笑っていることに気がつく。教室の静けさになんだか急に恥ずかしく思って、机に顔を伏せた。顔が火照っていてなかなか眠れない。体の右半分が少しむず痒いような、こそばゆいような感覚。きっとこの隣の女のせいだ!


もうすぐ可愛い日々にたどり着く
t.剥製
101222かける

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