学校で1番太陽に近い所で僕は授業をエスケイプしていた。いわゆるさぼり。真面目な僕にしてはなかなか珍しいことだ。教室に居るのがなんだか息苦しかった。ラビは僕に、当たり前だけどいつも通りに接していたけれど彼女はいつも通りとはいかなかった。
僕と彼女は普段からあまり接することはないから、2人の間に漂う気まずい空気というか、いつも通りではない空気に、誰も気付きはしなかった。でも、さすがにラビは、彼女の自分への態度の違いに気付いたところがあったみたいだけど、何も言わなかった。

太陽に1番近い屋上だけれど、タンクの裏側は陽が当たることはなくて、灰色をしたコンクリートからは、夏服越しにひやりとした感触があった。そういえばあの感じは、なんとなくひやりと冷めていた気がする。彼女は昨日のことを全部無かったことにしようと、僕との必要以上の接触をあからさまに避けていた。昨日僕がしたことを、ただの血迷い事と思っているのだと分かった。

「 はあ」

本能的に衝動的にあんなことをしてしまったという所はある。でも、全部ぜんぶがそうだったとは思わないし、思わないでほしい。
こんな季節なのに涼しい風が吹いて、もう考えるのを止めてしまえば楽なのかと考え始めた時にドアが開いた。目がぱちくりした。なんで、居るんですか。


「アレンがさぼりって珍しいね」

少しだけ、少しだけいつもとは違っていたけれど、綺麗な笑顔が、何も遮るものが無い青空に栄えていた。心臓がどきどきしていた。これは緊張からくるものなのか、違う気がする。

「やっぱりさ、このままじゃ駄目だよ」

ちゃんと話をしようと自分の目を真っ直ぐに見る。彼女の強い気持ちに僕も応えようとして、口を開いた。

「急にあんなことして本当にすいません」
「…いいよとは言えないけど、そんな顔しないでよ」

よっぽど僕は悲壮的な顔をしていたのだろうか、彼女は笑ってしまった。僕も笑っていいのだろうか、考える内に堪えきれなくて笑ってしまった。さっきまでの張り詰めていた空気が急にほどけていって、2人して笑った。なんで笑っていたのか分からないけど、笑い終わった後にはあの空気は無くなっていた。

「なんで笑ってるんだろうね」

目元を指先で拭いながらも彼女は話を進める。僕がはっきりしないといけない、小さく息を吸い込んだ。

「ねえアレン、」

酷く優しい声だった。人がこんなにも甘い声で誰かの名前を呼ぶのは、どんな時なのか。彼女は一瞬だけ目を伏せて、もう一度僕の目を見据えた。真っ直ぐすぎるから心臓がずきずき痛くなるのか。

「ラビが好きなの」

どくん、って鼓動が1回だけ大きく鳴ったように聞こえた。知ってますよって言うと、ごめんねって返された。彼女はそのまま静かにドアを閉めて教室に戻った。屋上にまた1人になる。

「はーあ」

あんな男のどこが良いんだか。へらへらしてるし、盛りのついたうさぎだし。
それでも僕は、彼女がなんでラビの彼女でい続けるのか知っているようだった。ラビにこの夏のことは秘密にしておく。彼女の故意じゃなくても唇を奪われたなんて、嫉妬深いラビが知ったら僕に怒り出すよりも先に、しなしなにくたびれてしまうだろう。そんなラビが可哀想に思ったんじゃなくて、僕からラビへの意地悪というか悪あがき。2人だけの秘密を、持ったつもり。

「…ざまあみろ」

悪態をつく僕の髪を、夏色をした風が揺らした。少しだけ泣いてしまいそうだから、そうなる前に寝てしまおう。誰か起こしに来てください。



すやすや
100829かける


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