スターダストを飛び越えてのアレン側。読まなくてもたぶん分かります。




僕の考える世界とはこの、僕が見る世界のこと。世界がこんなにも揺らめいて見えてしまうのは何故だろう。赤い夕日、照らす光が暖かい。僕は決して厭世的な人間じゃない。毎日が幸せで溢れかえっていて笑ってばっかりだ、とは言えないかもしれないけど、些細な何かに胸を躍らせることもあれば逆もある。普通も普通。拙い恋をひっそりと育んだりもする。


(先輩、好きです)

月1回、委員会活動の掲示物貼り替え中とその帰り道だけ、先輩と2人きりになれる。
こうやって唇を形作るのは何度目になるのか、好きで好きで仕方ないくせに声は出ない。隣の脚立の上でぴょこぴょこ跳ねるポニーテイルみたいに僕の心臓は忙しなく動いた。僕が先輩のことをこんなにも好きだ、と思えるようになったのはほんの最近のことで、それは僕が今まで1番に大切にしてきた人との別れを意味した。
てきぱきと委員を纏め上げていく、お姉さん気質の先輩に憧れこそ自覚していたものの、寧ろ自覚していたからこそ、隠れた場所でむくむくと大きくなって鼓動を速めていくこの気持ちに気付くのが遅くなった。それはつまり、あの子をより傷付けてしまったということだ。

雪が降る日にあの子に告げた、別れて欲しいと。あまりにも自分勝手だと思った。憎まれないはずがないとも。だけどあの子は、ひやりとした空気の中で僕に笑顔を贈ってくれた。僕の、罪過と言って違いないものを、僕を、許してくれるのだと、笑った。乾いた北風がそうさせたのか、悲しみなんて軽すぎた感情が、あるいは両方か。あの子の目には零れない限界まで涙が溢れていて、無理矢理に演出された最後は痛々しくて、僕は唇を噛むしか出来なかった。

僕のことを、こんな僕のことを想ってくれていたあの子とのさよならに感傷する反面、やはり先輩のことを想い続ける僕が居た。
先輩は何ヶ月か前に彼氏と別れたのだと誰かに聞いた。その彼氏の浮気が原因で、悔しいやら悲しいやらで先輩は別れを自分から切り出したけれど、今でもその男を想い続けているのだ、とも。それまで先輩に彼氏が居たことすら知らなかった僕は、先輩には先輩の世界が在って、それと僕の世界とは決して一致などしないのだという当たり前に寂しさなんて感じて、実ることのない想いを持ち続ける先輩と自分とが重なって見えたから、楽しげに笑う横顔に胸が締め付けられた。


「明日で最後かー」
「そうですね」
「なんか寂しいね」
「…はい」

夕日に照らされた先輩の顔は少しだけ俯いていて、なんだか僕まで寂しくなる。1年の僕と1学年しか違わない先輩はまだこの学校で過ごすことになるし、またこの委員会で委員長をするんだろう。何も変わらないはずなのに、アスファルトに伸びる陰のように僕の中の何かが揺らめく。

「アレン次も入るんでしょ?」
「先輩が入らないんだったら」
「なにそれ!」

無理にでも入れてやるから!って子どもみたいに言う先輩に、なんだか胸のざわめきが溶けていく気がした。


「あ…」

さっきまで、ついさっきまで一緒に笑っていた先輩が漏らしたのは、なんというか、驚いたと言うよりは、間の抜けた声だった。直ぐに先輩の視線の先を見てみたけれどやはり後悔した。気付きたくなかった。

先輩の想う人が、僕の知らない人と手を繋いで歩いていた。新しい彼女だろう。道路を挟んでいてあっちからは気付かないだろうというのが唯一の救いだけど、先輩はもう気付いている。焼き付いている、もう離れない。
こんな時に恋人ならば堂々と、僕のより低い位置にある頭を抱き寄せて涙を隠してあげられるのだろうか。先輩が見るのはあっちじゃないんですって、言ってもいいんだろうか。

表情を無くして一点を見詰める、ただ見ているだけの僕には切なすぎた。

急に、ごめん。すぐ、止まるから。ちょっとだけ、待ってて。

顔を手のひらで覆い隠した先輩のそれに気付いた時には僕の頬には何筋も涙が流れて止まらなかった。先輩には見えてない。
世界がこんなにも揺らめいて見えてしまうのは何故だろう。そんなの、先輩のことを想って泣くからに決まってるじゃないか。一致しない世界が少しだけ重なり合ったなら、先輩が僕のことを想ってくれたなら、僕らはこの揺らめく世界に後悔なんてしなくて済む。



綺麗な言葉はいらない
t.ベイビーピンクは目に痛い
100323かける



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