今日、ユウくんは高校生ではなくなってしまう。卒業する。

剣道で推薦入学を果たしたユウくんが入った高校は、所謂優等生が通うような学校だったから、ユウくんに小さい頃から恋い焦がれていたわたしは頑張った。ユウくんのような特技、というか特徴すらも持たないわたしは偏差値をどれくらい上げたのだろう。
それなのに。わたしの努力も虚しく同じ高校に居られたのはたったの1年間。最初から分かってはいたけれど、想像していたよりも悲しいし、不安になる。
ユウくんはかっこいいのだ。その辺のイケメンなんて比べ物にならないくらいにかっこいい、今時珍しい堅物男子だ。そんなユウくんと綺麗なお姉さんがくっつかないように、幼なじみという名目を利用して、誰よりもユウくんの近くで立ち入り禁止の札をちらつかせていたというのに。
ユウくんはエスカレーター式にこの高校を卒業して、大学に上がっていってしまう。卒業しないで、とは口が裂けても言えない。そんなこと言ってもユウくんを困らせるだけなのは知ってる。


「おい」

なにぼけっとしてんだと声が聞こえて、卒業証書の入った丸い筒が頭を小突く。ユウくんとわたしは桜吹雪の中の帰路にいた。卒業式は少し前に終わった。

「してないよ」
「なに考えてた」
「…べつに」
「ならいい」

わたしはたまに思ってしまう。ユウくんは、わたしが考えていることを全て見透かいるのではないかと。それならそれで構わないと思う。どうせなら、零れ落ちることなく全部伝わっていて欲しい。

「卒業おめでとう」
「ああ」
「春から大学生だね」
「なんも変わんねぇよ」

ずきりと心臓が痛くなった気がした。自分で引っ張り出した話題なのに。なにも変わらないって言ってるのに。変わらない訳ないじゃん。ユウくんは大学に行っちゃうんでしょ。きっとすぐに彼女ができちゃう。わたしなんか、幼なじみなんかが入っていく隙間は存在しない。
それを分かっていてもやっぱり怖いものは怖い。好きの2文字は重い。ユウくんの隣でこうやって歩けただけで幸せだったじゃないかと後悔するのは嫌だ。でも、こうやって何もしないでユウくんの1番の理解者ぶって、ユウくんを縛り続けるのは最低だ。


「ユウくん、大学行っても頑張ってね」
「なにを」
「なんでも頑張れ」


ユウくんがわたしの考えてることを分かるなんてやっぱりない。時折触れる少し節くれだった白い指だとかに、わたしは勘違いをしているだけだ。不器用なユウくんがわたしの気持ちを知っていたなら、こんな風に2人では過ごせない。
初恋と呼ぶには軽過ぎて、愛と呼ぶには、まだわたしは幼い。ユウくんに好きな人ができるまではこのポジションに居たいと思ってしまう。
ただ、いつもよりも少し離れた所に居ようと思う。幼なじみの正しい距離なんて知らないし分からない。だからわたしは、ユウくんへの想いがいつか風化するまで。綺麗な初恋だったと懐かしめるようになるまで。少しだけ大人になるのを待とうと思った。綺麗なお姉さんになっても、ユウくんのことを忘れられる日なんて訪れないのは知っているけれど。



逸らしても春
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