例えば。
ブラックのコーヒーを口に運ぶゆるりとした動作だとか、俺と話をする時にしっかり目を合わせるとことか。俺は、コーヒーにミルクとそれから砂糖も入れてあまーくしてからじゃないと飲めないし、いくら片方の目だけだと言っても、自分の彼女の目を見て話をするのはなんだか恥ずかしいような気持ちがあったから、彼女のどんな仕草をとったって、どれも俺のより大人のものに見えた。
今居るこの部屋だって白ばっかりで統一させててなんかかっこいいしさ。観葉植物とかあるし。考え出したらキリが無いのだけれど。

「じろじろ何見てるの?」
「べっつにー」

声にして初めて、少しだけ彼女を妬んだような、劣等感のような気持ちに、腹の中をじわじわ侵蝕されてってることに気付く。だって、ずるい。男女平等って謳われたところで男は女の子を守っていきたい生き物なんさ。仕事だって、俺はできないわけじゃないけど、彼女はもっとできる。そーゆうことは、ほら。ヘマした女の子に素早いフォローを入れたりすんのがかっこいいんじゃん。そんなことばっかり考えてるから、逆に俺がヘマしたりして。笑っちゃうさ。


「あ、電話」

スピーカーからゆっくり流れる英語の歌詞に安っぽい電子音が重なって、彼女はローテーブルの上のケータイを手に取る前に、ごめんね、と呟いてから隣の部屋に移った。
男から、か…?いや、たとえ男からだったとしても会社の奴からだろうし何より、彼女が俺たちの関係に真摯に向き合ってくれてることを俺は十分に知ってる。


ちくたく ちくたく
さっきから目立って俺の耳に侵入しているような時計の針を見ると2分しか経っていなかった。もう10分くらいは余裕で経ってるような気がしてたのに。


「ごめんごめん。会社の人から」

ぱたぱたとスリッパを鳴らしながら彼女が戻ったのは5分も経っていない頃。ふつう、電話相手をいちいち報告したりしないっしょ。俺がこーゆうくだらない奴だって解っているのか。それとも俺の表情に問題があったのか。俺に知る術は無いんだろう。たぶん前者だろうと予想だけはできるけど。だって彼女は大人だから。

「もう、そんな顔しないでよ」

あ、もしかして後者?いや、両方かもしんない。だって俺ってこんな奴だから。
はい、って言われて細い指がチョコを摘まんで口に持ってきていたから素直に口を開けたら、普段は見せないとびっきりの笑顔と一緒に甘ったるいものが溶け出した。こーゆうとこ。いっつも凛としてるくせに俺にだけ女の子みたいな顔をするとことか。


「大好き」
「…なにー?急に」

くすくす笑った彼女を軽く睨んでやると、また笑い出してしまって、俺もつられて笑ってしまった。もういっか、考えんのめんどくさいし。そこそこ幸せ。

そっと口に入れてみたブラックのコーヒーはやっぱり苦くて、ミルクを取りにソファを立ったら、手招きされて彼女の隣に座った。

「なにー?」

さっき彼女が言ったのを真似てみたら耳元に唇を寄せられた

私も。
冷たいコーヒーはあったかい部屋で汗をかいたみたいに水溜まりを作っていた。ぽかぽかする顔と赤い耳は何でごまかそうか。
俺がへたれで彼女がしっかり者だってお互い知ってるし、俺が思ったより意地っ張りで彼女が甘えたなのも知ってる。もう良いじゃん。男の子女の子。コーヒーは苦かったけどチョコは甘かったし。唇だって、今は甘いんだろうし。



もうすこしの感傷
t.少年チラリズム
090910かける


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -