まだ陽も沈みきっていない遊里に極彩色に着飾った女たち。浮いているようで、こんな空間だからか、1枚の絵のようにも見えた。格子の中の女は重そうな着物の中から生白い手で誘う、毒々しい色の唇を動かした。生きてはいない、ようだった。

並ぶ格子の中、ただ1人だけ、伸びないままの腕。褪せた畳の上で憂うような表情のままに存在する、女。ただ一時、足を止めた。俯いた女は俺の方に気付かない、ただただ、哀しんでいるように映った。
塗りつぶす紅を落とせば何を紡ぐのか。重い枷を外せばどこへ向かうのか。白の表情を剥がせば何を見ているのか。

一瞬で、手に入れたいと望む。色欲、劣情、焦燥感。全ての感情が飽和して溢れそうになる。
女は娼婦で、抱くのは簡単だが、手に入れるのとは少し、違う気がした。女の瞳に俺が映っていなければ意味、満たされない。


女は畳に映った格子に重なった俺の影に気づいて直ぐにこっちを向いた。怯えたような顔をやんわりと微笑ませる。

「わたしを、買いなはるん?」

笑った目元には涙の雫が今にも零れそうになっていた。やっぱり。この女は、似ていた。

格子と格子の間に手首から先を通してみた。腕くらいなら入る幅が有ったが、それはしなかった。手に入れたい。
女は伸びた手を見て驚く、初めて俺の目を瞳に映した。何をしているのかが分からない、そんな顔。分からなくて当然だ。手と手が繋がったところで何も生まれず何も変わらないことなんか、ここに居た女もここに来た俺も知っていて。だから、遣る瀬ない。似ていた、女。

女は立ち上がって俺の方に来ようとはしなかったが、代わりに江戸紫の着物から白い手を出して俺が出した手の影に重ねる、薄く笑んだ。
女が重ねたのは手だけじゃない。俺と同じ、重ねている。お互い顔なんて、目なんて見ない。影ならば、と。
けど俺は。影を重ねて欲しかったわけでも、格子が無くなることも望んではいなかった。ただ、そばに来て欲しかっただけなのかもしれないと、あいつの影がちらついた。



君の影、追うことの
0502かける


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