僕は嘘が嫌いです。どうして人間が平気で嘘をつける生き物に進化していったのかが今でも分からない、嘘をつく人が嫌いで嫌いで仕方が無い。神さまとかって特に信じているわけじゃないけど、嘘って、冒涜じゃないのか。いや、この世界をこの世界として創ったのは人間で、じゃあ人間は神さまになったんだろうか。じゃあ神さまは嘘つきで人間も嘘つきで僕も人間で、って。意味も求めていないのに答えなんて有るはずが無くて、結局振り出しに戻るだけだった。振り出しに戻ったところで、僕は僕が嫌う嘘つきだ。

2年ときっちり1ヶ月前。僕らはありふれた愛を囁き合ってありがちな幸せを手に入れた。愛し合っていたから当たり前に2人で笑って暮らしていた。普遍的な日常には何にも不満は無かったように思えるけど。
でも今僕たちは2人で笑いもしないし泣きもしない。お互いの顔も見ずにテーブルの上の薄い紙切れとにらめっこを続けている。ガラス張りのテーブル越しの膝の上で重ねられている彼女の左手の指に、光っているものなんて何も無かった。僕の首に掛かっている銀のチェーンからも、いつも通っていた物は消えていた。

人間って本当に本当に、不思議な生き物だと思う。神さまは嘘をつく人間で、嘘をつく人間は嘘で創った世界に住んでいるというのに誰より1番に嘘が嫌い。でも好き。嘘つきは嘘をつくのが好きなんじゃなくて多分、嘘を使った後が好きで心地好いんだ。嘘で創った時間も何もかも、自分のものだって。支配、だろうか。桎梏じゃない。だって気付かない、どっちも。本当に僕みたいで、嫌気が差す。

ぼおっとどこかを眺めていたような僕の目を、顔を上げた彼女の両目が捕まえた。それはいつ見ても綺麗に澄んでいて、まるで嘘みたい。僕のこの目の前に有ることが嘘。彼女は口を開けて何か言うのかと思ったけど、少し瞳の中を揺らしただけで、結局何も言葉にしなかった。
それから本当に何もせずに彼女は部屋から出て行った。テーブルの上の紙切れにペンを走らせることも、何も。ただただ、悲しそうに映った。泣きはしなかった。

彼女の居た空間を見てやっと、今更、考えた。なんで、と。僕は嘘が嫌いじゃないか。なんで彼女に。嘘で得るものは虚しい空白だけだと知っていたはずなのに、分からなかった。彼女がまた目の前の椅子に座ってくれると考えたりはしないけれど、また会えたなら。君だけを映して色盲になろう。

最後の嘘、そういえば彼女は嘘が嫌いだった。だから僕も嘘を嫌ったのだし、嘘をつく僕を嫌ったら良いと思う。最後の最後に嘘だって言うから許して欲しい。
「愛してる」



生まれたての涙
(t.氷上)
090426かける


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