「でね、その時の神田ったら酷いんです!」

僕は彼女のことが大好きで、愛しているし、彼女もまたそうであってくれていると思っている。
任務から帰ってきたら今みたいに報告書だって後回しにして、彼女の所に走った。彼女に会えるだけで、冷たくなってきた長い廊下の空気ですっかり冷え切ったほっぺただって一気に血の気を戻してピンクになる。彼女の笑った顔に何回だって心臓が忙しなく喚いた。
彼女との時間は一緒に居られなかった時間を補う為の大事な時間で、たいして面白い話は出来なかったけど、病室からなかなか外出を許されない彼女には何だって話した。任務の話から今朝のラビとの他愛ない会話まで。彼女は僕が何の話をしてもふわりと笑ってくれて、その1つ1つで僕もなんだか幸せになれた。幸せな時間は、僕らを時間が流れる世界から隔離する。そんな錯覚。




「あ、もうこんな時間か…」

いつの間にかカーテンからちらりと覗く景色はすっかり色を変えていて、そろそろ次の任務に向かわなければならない時間だ。彼女にごめんねと掛けて重いドアを閉めた。




「ラビ、何言ってるんですか?」

任務帰りの列車内。珍しく広めの個室がとれたから上機嫌で彼女のもとに帰れると思ったのに。
また、これだ。最近ずっとこう。リナリーだってコムイさんだって、あの神田まで。みんなが揃って同じことを言う。ラビにいたってはもう3回目だ。


「だから、あいつは…」



「    」



一瞬、耳障りなガタンゴトンという一定のリズムに混ざって、何かを遮るような、拒絶するような電子音が脳に直接響いた。

ラビもみんなも、意味が分からない。




「ただいま」

帰りが真夜中になったって彼女はいつだって暖かい毛布にすっぽりとくるまって僕の帰りを待っていてくれた。おそいよ!とか怒る振りをしてみても、結局最後は笑っていた。
でも今、この部屋は外と変わらないくらい、冷たくて暗い。在るのはベッドと、その上の新品のまっさらな白いシーツに被さった冷たい「何か」。
彼女がお気に入りだと言って使っていたそのベッドに「何」があるのか、僕は知らない。
この頬に伝う一筋の温度の正体も。



「あいつは…もう死んだだろ?」



なみだを抱える両手が酷く苦しくて重い
憂鬱アリスの詩編さまへ
081124かける


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