midnight



Words Palette@torinaxx

19
花蜜に滲む
狡噛慎也(執行官)

うそつき
煽るだけ
素直


Templated
by Sicknecks



※連載if、恋人設定


「……狡噛さんは黒と白、どっちが好きですか?」

 なまえがそんな問いを投げかけたのは、唇に触れていた温もりが離れてしばらく見つめ合った後のことだった。

 トレーニング器具以外にまともな家具がない狡噛の部屋ともなれば、リビングのソファーが二人の定位置になるのは自然なことだ。しかしいつもと違うのは横に並んでいるでもなく、向かい合って座っているでもなく、なまえが狡噛の膝の上に跨っているというこの上なく密着した格好をしているということだった。
 狡噛はなまえの腰を抱き、なまえも狡噛の肩に手を乗せて、紅葉を散らしながら狡噛に訊ねる。

「いきなり何の話だ?」
「いいから答えてくださいっ」

 なまえの有無を言わさない物言いに狡噛はしばし考えた後、黒だと素直に答える。その回答になまえはカッターシャツの襟元にそっと触れて小さく安堵のため息を吐いた。
 これなら何が起きても問題はない。ただ危惧すべきは己の体に彼が満足してくれるか。そしてその雰囲気に果たして自分が耐えられるか。

「もしかして下着の話か?」

 なまえの些細な仕草に何となく察しがついた狡噛が思ったままに声に乗せると、なまえは俯きながら小さく頷いて自身の襟元をきゅっと掴んだ。

「その、せっかくなら狡噛さんの好みに合わせたいなと思って……」

 蚊の鳴くような声でそう言うなまえに、狡噛がその先を期待しないわけがなかった。
 恋人という関係になればいつかはそんな時が来ると思っていたなまえは、狡噛の好みに思考を巡らせながらいくつか下着を新調した。一か八かで黒を選んだがどうやら読みは当たっていたようだ。
 こんな脈絡のない問いに、いかにもそういうことを期待しているとでも言うような受け答え。しかしそんな気持ちが全くないとも言い切れなかった。事実、肌の手入れだって抜かりない。

「誘ってるのか?」
「っ、そういうわけじゃ……!なくも、ない……」

 肩に乗せていた手にぎゅっと力を入れ、顔を隠すように狡噛の肩口に頬を寄せる。だがそれはそれで密着した分、余計に心臓の音が聞こえてしまいそうだとなまえは少し後悔した。しかし触れることであらゆることが満たされるなまえにとって、狡噛から物理的に離れるという選択肢ははなから存在しない。

「大体、先にキスしてきたのは狡噛さんじゃないですか」

 拗ねたようになまえがぼそりとこぼす。その気にさせたのは狡噛の方が先だと言わんばかりに。

「人のせいにするのか?部下に責任を押し付けるなんて、まったくとんだ監視官だな」
「今は監視官じゃないもん……」

 こういう時、あえて役職や肩書きを引き合いに出してくる狡噛がずるいなとなまえは思う。自身の真面目な性格を利用し煽るだけ煽り、最終的に自らの意思となるように仕向けられている、そんな気がするから。

「……俺のために買ったなら見せてくれよ」

 耳元で甘く蕩けるように囁かれて体の奥が疼く。狡噛が熱を持った指でその髪に触れると、なまえは瞳を揺らしながら狡噛に視線を合わせるように顔を上げる。

「でも私、きっと狡噛さんを満足させられない……」

 唐之杜のような豊満な体つきもしていないし、六合塚の透明感のある白い肌も持ち合わせていない。狡噛を欲情させるほどの女性特有の色気というものが備わっていない自分に全くと言っていいほど自信がなかった。

「杞憂だな。なまえがそういう反応するだけで充分その気にさせられてる」

 しかし狡噛からすればなまえの悩みなど取るに足らないことである。変態性を隠しもしない言動をしているなまえが、男女の雰囲気になると――さらに言えば狡噛が何かをする度、あからさまに頬を染めたり照れた反応を見せる。それだけで狡噛の情欲はみるみる掻き立てられていく。
 跨っているなまえの腰をさらに引き寄せ、押し当てるように自身のソレを際どい部分に擦り付ける。突然のそれに驚いたなまえは上ずった声とともに腰を浮かせた。

「逃げるな」
「んッ、はぁっ……んんっ、!?」

 狡噛の言葉通りとも言える捕らえるような噛み付くキスになまえが必死に応えていると、その熱い吐息に混じってシャツの上から骨ばった手がなまえの胸をやわやわと揉みしだく。
 換気扇の回る音だけがする夜の静かな部屋――快楽に従順ななまえは抑えきれずにその艶めかしい声を上書きするように響かせる。

「んぁ、狡噛さっ……」

 なまえが声を漏らしている間にも、狡噛の唇が口から徐々に下へと移動していく。聴覚を刺激するように湿っぽいリップ音を立てて首筋から鎖骨――さらに滑らかな肌に当てるようにして吐息をもらす。生ぬるいそれがくすぐったくて、気分を煽られて、なまえは耐えるように声をくぐもらせた。
 それから胸を愛撫していた狡噛の右手がカッターシャツのボタンをひとつふたつ、器用な手つきでゆっくりと外していく。露になった胸元にキスを落とせば、空気に晒されたせいでなまえの体がふるりと震えた。

「んんっ、はぁ……」

 あられもない格好になり、緩い谷間に備わった黒のレース。余計な装飾がないシンプルなデザインがなまえ本来の姿を表しているようで狡噛の熱は上がるばかりだった。同時に滅茶苦茶にしてやりたいなんて、付き合う前には想像もつかなかった思いが芽生えてくる。

「いいな。似合ってる」
「恥ずかしい……」

 感心するように呟かれた一言になまえは恥ずかしくなりながらも、しかし褒めてもらえたことが純粋に嬉しくて胸がきゅんとなった。他でもない狡噛のために選んだのだ。目の前にいる彼が満足してくれたらそれだけでもう充分だった。

「でも、良かった……ひぁっ!?」

 頬を染めてはにかむなまえに狡噛の体はさらに反応を示す。自然と求めるようになまえの内腿に指を這わせると、なまえは目を見開いて体を強ばらせた。
 今日に限ってスカートタイプのスーツを着てきてしまったのは果たしていいのか悪いのか。
 羞恥でどうにかなりそうなのは事実だが、何よりここまでされてやめてなんて言えない。むしろ体は狡噛を求めて、既になまえのソコは愛撫によってぐっしょりと濡れきっていた。

「はぁ、んッ、」

 肝心の場所に触れそうで触れない。なまえの反応を楽しむように狡噛はひたすら内腿の際どい部分を攻め立てる。素肌を覆うストッキングが邪魔で今すぐにでも破ってしまいたい衝動に駆られるが、どうにか耐える。
 焦らす狡噛がもどかしくて仕方がないなまえは身を捩ってだらしない声で懇願した。

「それ、やだぁ……」
「何が嫌なんだ?ちゃんと言ってくれ」

 なまえの言いたいことを察した上でわざと言わせようとする狡噛も大概変態だ。そんななまえを見てひどく興奮するくらいには。

「早く、触って……?」

 頬を上気させ、濡れた瞳で見つめるなまえに狡噛も我慢出来ずに下着に手を掛けそうになる。自身の欲もだいぶ限界まで来ているが、まだだ。自分の欲を抑えてまでなまえの欲情した表情が見たいなんて、さすがにマゾすぎるな……と狡噛は内心自嘲した。
 とはいえ普段真面目な人間が自分の手によって女の顔になる様は見ていて素直に気持ちがいい。甘えた声で縋ってねだる姿は、到底監視官の時のなまえでは想像すら出来ないのだから。自分だけにしか見せない表情を、もっともっと乱してやりたいと思う。
 しかしあまりいじめすぎて機嫌を損ねられたら興ざめというものだ。

「了解だ」

 スカートをたくし上げるようにして両手でストッキングをずり下ろす。きっとこのストッキングはもう使い物にならないだろう。
 ようやくなまえが欲していたソコに狡噛が下着の上から触れると、布越しからでもわかるくらい愛液でまみれていた。……さすがに焦らしすぎたか。

「うそつき、」

 布越しじゃなくて直接がいいのに。わかっているくせにそれでもなお焦らしてくる狡噛にどんどん体が敏感になって、自分でも知らなかったはしたない部分をさらけ出される。

「何回イったんだ?」
「知らな、ぁんッ、」

 狡噛がクロッチ部分を指で擦りながら敏感なところを刺激すれば、なまえは一層嬌声を上げて快感を求めて腰をしならせる。

「はぁッ、も、我慢、できない……っ」
「これだけ濡れてたら解す必要もないな。俺もそろそろ限界だ」

 苦しそうに息を吐いて、跨っていたなまえを抱き抱えてそのままソファーへと組み敷いた。狡噛の熱い眼差しになまえの下半身がきゅう、と反応してまた蜜が溢れ出す。自分に欲情している表情がこんなにもそそられるなんて、どうにかなるのも時間の問題だ。
 今度こそなまえの下着に手を掛け膝下まで脱がせると、ショーツもブラと同じデザインだったがいわゆる紐パンと言われるものだったことに気付く。自分に見て欲しくてこれを選んだのだと思ったら何だかとても愛おしい気持ちになった。

「狡噛さん、」
「なんだ?」
「すき……狡噛さんにもっといっぱい触ってほしいの……だからおねがい」

 首に腕を回して素直におねだりなんかされてしまえば全力で応えなければ男が廃るというものだ。もとより誘惑された時点でなまえのナカに吐き出す以外考えてなどいなかったのだが。

「なまえはねだるのが上手いな。……せいぜい覚悟しろよ」

 シャツを脱ぎ捨て、ベルトの金属音を響かせながらスラックスを下ろしなまえに覆い被さる。狡噛のモノもなまえを欲して下着の下で窮屈そうに反り立っていた。
 さすがにゴムが足りなくなることはないだろうが、どちらにせよ焦らした分だけ己も耐えたのだ。一回だけで終われる自信はさらさらなかった。


2023/07/13



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