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アフタヌーン・メロウ

祝福の言葉を掛けられることがどれだけ幸せか――今日という日を迎える度に強く実感する。
朝から出会う人たちみんなに「おめでとう」と言葉をもらい、さらにはプレゼントまでくれたサーヴァントもいた。普段は霊体化していてあまりカルデアに姿を見せないサーヴァントもわざわざ声を掛けてくれるものだから、ちょっとした芸能人気分で嬉しいやら恥ずかしいやら。でもやっぱり祝ってくれる人たちがいるというのは素直に嬉しい。

「お、今日の主役のお出ましだ。誕生日おめでとう。はいこれ、おまけね」
「わ、ありがとう!ブーディカさん」

トレーに載せられたデザートに私は目を輝かせる。キッチン組の作る料理はどれも絶品で、その手作りを食べられるだけで私にとっては最高のプレゼントだ。
道中出会ったサーヴァントたちと会話を交わしたりでいつもより食堂に足を運ぶのが遅くなってしまったためか、すでに食堂は人が出払ったあとだった。キッチンではタマモキャットと紅閻魔が食器の片付けをしたり、昼食の下準備を始めていた。
そんな中で肝心の彼の姿がどこにも見当たらない。

「あれ、エミヤはいないの?」
「あー、彼はちょっと別件で忙しいみたいで。奥にはいるよ」
「そっか、」

正直、彼と唯一契約している私にとっては他のサーヴァントと比べたら少なからず特別な存在なわけで。だから朝起きて一番に声を掛けてくれるのが彼であるとどこか期待していたし、傲慢にもそうであると思っていた。
しかしそうでなかったからといって彼を責めるのはお門違いだ。けれど、でも。揺るがない信頼関係があると自負しているからこそ、本音を言うとちょっと寂しいな、と思ってしまった。

「でもお昼には終わると思うからさ、それまでは待っててあげて」
「うん……?」

包み込むように柔らかな笑みを見せるブーディカさんになんとも曖昧な返事をする。午前の種火周回で声を掛けようと思っていたけどやめにしておこう。彼女の笑顔を見るに悪い話でもなさそうだから。



あれから朝食と周回を済ませて少し遅い昼食で再び食堂へとやって来た。お昼時は喧騒で埋まるこの場所も、ピークを過ぎた昼下がりともなれば一気に穏やかな空間へと変わる。
隅の席でご飯を口にしながらふとキッチンに目をやればエミヤの後ろ姿が見えた。戦闘でもキッチンでも幾度となくその背中を見てきたけれど、やっぱり頼もしいなあと改めて思う。
私の中で彼という存在が今やどれほどのものなのか計り知れない。だからさすがに放置されたままでは悲しくなってきた。食べ終えたら多少の文句でも言ってやろう――なんて思っていたのに。

「マスター、少しいいか?」
「わっ!?びっくりしたあ……」

最後のひと口を食べ、少し目を離した隙にいつの間にやらこちらに来たらしい。おかげで軽くむせてしまった。

「大丈夫か?」
「うん、だいじょうぶ」
「挨拶が遅れてすまない。マスター、誕生日おめでとう」

そう言ってテーブルの上に置かれたのは聞くまでもない、エミヤ特製の手作りケーキだった。
ホールケーキをそのまま小さくしたような、一人前サイズの華やかで豪華な柑橘類と苺のケーキ。それぞれがふんだんにあしらわれ、飾り付けを見ただけで彼がこのケーキにどれだけ力を注いだのかが伝わってくるようだった。

「ありがとう。……ブーディカさんがちらっと言ってたけど、もしかして朝からキッチンに篭もりっきりだったのって……」
「ああ、君に食べてもらいたくてね。つい夢中になってしまったよ」

「だがこんな時間までマスターを放置するというのはさすがにいただけなかったようだ」とエミヤは苦笑いした。もしかしてあの朝のやり取りの後、ブーディカさんに何か言われたのかな。
けれど今となっては何も気にならない。私のためにそうしてくれたというだけで胸がいっぱいなのだから。

「すごく嬉しい。エミヤが作ってくれる料理、本当に美味しいし私大好き」
「君が生まれた特別な日だ、俺も腕がなるというものだよ。物が思い浮かばなかった、とも言うがね」

エミヤはそう言って自嘲的な笑みを見せるけれど、私にとってそれはもう何にも代え難い、とても価値のあるものだ。特別な日であればなおさら。

「ねえ、ちょっと早いけどティータイムにしない?せっかく作ってくれたんだしすぐにでも食べたい」
「昼食を食べ終えたばかりだろう?」
「平気平気!周回で体動かしてきたし、デザートは別腹って言うでしょ?」

デザートだけじゃなくてエミヤが作ってくれる物なら起き抜けだって夜食だって構わず食べてしまうに違いない。それだけ彼の作る料理が好きで――同じように彼自身のことも。

「それに――今日やっと話せたんだから少しは付き合ってよ。記念日くらいエミヤと二人で過ごしたい」
「仕方ない、マスターの頼みとあらば従うまでだ。すぐに準備しよう。希望は?」
「んー紅茶かな。茶葉は……エミヤのおすすめで」
「承知した。休憩しながらゆっくりしていてくれ」

お礼を言う間もなくトレーが下げられ、テーブルの上にはケーキだけがそこにある。まじまじと見つめてはさまざまな想いが湧き上がる。
このプレゼントにエミヤのあらゆる思いが詰まっているのだと思うと食べてしまうのがもったいない気もする。けれどそれ以上に、彼と語らうひとときは春の陽気のような心地良さがあるから。
そんなふうに胸を弾ませては、彼にあらゆる想いを募らせていくのだ。


2022/04/10

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