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かがやくジレンマ

※夢主不在
※虎杖視点


談話室に、はああああ、と五条先生の長く大きなため息が広がる。
一体どこから嗅ぎつけたのか――おおかた伏黒と釘崎たちに聞いたんだと思うけど。先生、人の恋バナとか好きそうだし。帰宅するや否や「今日どうだった?」と嬉々とした顔を向けられ、ありのままを話せばこのため息だ。あからさまにガッカリした反応されるとちょっとヘコむ。俺だって後悔と反省だらけなんだから。

「え、まさか何も進展もなくのこのこ帰ってきたの?」
「そんな言い方すんなよー。あーやっぱりもうちょっと積極的に行っても良かったかなぁ」

数時間前の出来事を思い出して後悔交じりのため息がもれる。

「告白は?」
「してない」
「さすがに手くらいは繋いだでしょ?」
「……繋いでない」
「マジ?ってことはキスもしてないってこと?」
「告白してないのにキスなんかできるわけねぇじゃん」
「オイオイ悠仁〜それはさすがに純情すぎるでしょ」

事の発端はみょうじと釘崎、伏黒といま話題になっている映画の話になった時だった。その映画が面白そうで気になっている、とみょうじが興味深そうに話をしていて、今度四人で観に行こうという流れになった。けれどいつも率先して誘いに乗る釘崎がこの時だけはやたらと俺とみょうじだけで行って来いと言ってきて、そこで俺は釘崎が気を利かせてくれたんだと察した。当の本人はどう思ってるかわからないけど、これをきっかけに少しでも何か進展させられたら――なんて思っていた。もし何もなくてもみょうじが楽しんでくれたらそれはそれで良かった。
正直これが世間でいう“デート”なのかはわからない。だって女子と二人きりで映画とか観に行ったことねぇし。でも高専前で待ち合わせをして、普段あまり見ることのないみょうじの私服姿を見た瞬間、心臓を掴まれた感覚がして息を飲んだ。目元と頬と唇が普段見ることのないほどに輝きを主張していて、それはまるで今日という日を楽しみにしていたのかと自惚れるくらいの煌めきだった。
普段している他愛ない会話も今日ばかりはそれはそれはぎこちなかった。時折手の甲を掠める肌に意識をとられ、触れるたびにこのまま手を繋ごうかどうしようかとひとり葛藤していた。セットされた髪からは女子らしくいい匂いがして触れたくなったし、潤いが備わった薄いピンクの唇には純粋にキスしたいと思った。
でも初めてのデートでみょうじの気持ちすらわからない状態でおいそれと手は出せなかった。仮にみょうじが俺に好意を抱いてくれていたとしても物事には順序ってものがある。それに釘崎にも「たとえ自分に好意を持ってるとわかっても簡単には手を出すなよ?いいな?」と以前助言――釘を刺されたし。女子の釘崎が言うんだからそれは素直に聞いておいたほうがいい。
結局告白どころか手すらも繋がないまま、飯を食ってゲーセンで遊んで――と普段とあんまり変わらない休日を過ごし、みょうじを部屋に送り届けて別れた。
上手くいかなかったことに少しばかりモヤモヤしていたけど、二人で過ごした時間が純粋に楽しかったと思ったのも事実だった。

「なまえだって悠仁のこと好きなんだしきっと期待してたはずだよ?」
「嫌われてはねぇのは何となくわかるけど……」
「ああ見えて頭の中では悠仁にあれやこれされたいって思ってるかも」

だからといって確信もないのに憶測で軽率に手を出して嫌われたくはない。好きだからこそ、そういうことは大事にしたいし慎重にならなきゃダメだと思うから。嫌がることだけはしたくないから、みょうじの気持ちをちゃんと知ったうえで同意を取ってからじゃないと。

「女子はちょっと強引なのが好きって言うしね〜」
「先生、それ釘崎の前では言わないほうがいいかも」

こんなの釘崎が聞いたら絶対怒るに決まってる。でも大して先生には伝わってないみたいで笑いながら軽く受け流された。

「なんか先生とこういう話すんのちょっとムズムズするんだけどさ、先生はどんな恋愛してきたのか気になるんだけど」
「え〜?僕?言い寄られたことしかないんだよね」
「自慢?」
「モテる男も楽じゃないよ?」

けらけらと笑っているけどきっと色々複雑な事情が絡んでいるんだろうな、と思う。先生は隠したいことほど笑って誤魔化す癖があるから。御三家とか五条家のことは正直よくわかんねぇけど金持ちの家らしいし、許嫁とか縁談とかそういうことが日常茶飯事にある家庭なのかもしれない。それはそれで大変そうだな。それでなくても先生は顔がいいし。

「……悠仁はその気持ち大事にしな。学生の青春なんてあっという間なんだからさ」
「おう」
「でも勝算あるならキスくらいはするべきだったよね」
「俺は慎重派なの!」
「物は言いようだね。奥手もすぎると飽きられちゃうからほどほどにしときなよ」

適当なことを言っているようだけど、でも先生の言ってることも一理あるんだよな。
さすがにキスはできねぇけど、やっぱり手くらいは繋いでも良かったかもしれない。


2021/03/02
title:金星

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