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青春は待ってくれない

※じゅじゅさんぽネタを含むので苦手な方は注意


「なまえ、今日は付き合ってくれてありがと!欲しい物たくさん買えたし最高の休日になったわ」
「私の方こそありがとう。野薔薇ちゃんといると楽しいからまた行きたいな」
「もちろんよ。来月渋谷に新しくオープンする店があるらしいのよ。今度はそこに行きましょ」
「うん、行きたい!」

ショッピングを終え、高専へ戻る前に休憩がてらにカフェへと立ち寄った。野薔薇ちゃんの隣の席には人気ブランドのコスメや洋服のショップ袋がたくさん置かれている。
野薔薇ちゃんは地方から出てきたからか、色々なものに憧れと興味を抱いていて特にコスメやファッションには抜かりがない。おしゃれな野薔薇ちゃんといると私まで刺激されて心なしか女子力が上がったような気がしていた。
ゆったりとした空気が流れる店内で、季節限定のフラペチーノとスコーンを堪能する野薔薇ちゃんはとても楽しそうだ。そんな姿を見ているだけで元気をもらえる。

「なまえ最近どうよ?」
「え、最近?」
「そう、最近。好きな人でもできたんじゃない?」

スコーンを頬張る野薔薇ちゃんが見透かしたようにさらりと聞いてくる。いきなり図星をつかれて啜っていたフラペチーノを吹き出しそうになった。危ない。にやりと得意げに笑みを見せるその顔は悔しいけれどとても可愛い。
いつかは打ち明けようと思っていたけれど、気持ちがまだ曖昧だった部分もあって自分の中に留めていた。何せ相手は年上で教師――五条先生だから。

「……うん。その、好き、かどうかはわからないけど気になる人がいて……」
「やっぱり!私の勘が正しければ相手は五条先生……」

「どう?」と自信ありげに弾ませた声に私は静かに頷いた。一体どこまで察しがいいんだ。ちょっとだけ居心地が悪くて冷たいフラペチーノを勢いよく流し込んだ。甘い。
勘のいい野薔薇ちゃんに少し気恥ずかしくなるけれど、私のことをよく見てくれているということに嬉しさもあった。それとも私が顔や態度で察するくらいわかりやすかっただけかな。それはそれでなんか恥ずかしい。

「なるほどね〜。まあ顔だけはそこそこイケてるんじゃない?顔だけはね!!」
「野薔薇ちゃん顔怖い」

やたらと顔を強調する野薔薇ちゃんに察して苦笑いが漏れる。手にしているカップがメキメキと音を立てていて今にも溢れ出しそうだ。

「スカート履かれたの思い出して怒りがこみ上げてきたわ。やっぱり一度ぶん殴らないと気が済まないわね」

うん、まあ教師に勝手に制服を着られたらそうなるか。さすがに私でも引いたもんな。
確かにモラルの欠けた部分があるのは否めない。けれど呪術師として、教師として尊敬しているのもまた事実なのだ。言ってることが矛盾している点についてはさておき。

「なんか嫌なこと思い出させちゃってごめん」
「なまえが謝ることじゃないわよ。で、そんな変態教師のどこを好きになったの?」
「この流れで言いづらいよ……」
「なまえの気持ちまで否定してるわけじゃないのよ。親友としてちゃんと聞いておきたいだけよ。だから聞かせて」

私を見る野薔薇ちゃんの表情はどこか穏やかに見えて、私を親友と言ってくれるそんな野薔薇ちゃんが好きで私は正直に胸のうちをさらけ出した。

「――って感じデス」
「カーッ!もー完全に恋しちゃってるじゃん!あークソッ、可愛いなオイ!」

あらかた話し終えて野薔薇ちゃんを見れば、言葉にならない――言うなればオタクが尊いものを見た時のように額を押さえていた。
でも相談したところで相手は教師だ。結果は分かりきってるし、憧れに近い感情だということは自分でもわかっているから想いを伝えることは多分しないと思う。
名前を呼んで、頑張れば褒めてくれて、軽々しく触れて頭を撫でてくれる。そんな先生にドキドキと同じくらい苦しい気持ちにならないと言えばそれは多分嘘だ。でもそれもきっといつかいい思い出になるから。だから今はこのままでいいと思っている。気持ちを伝えずに死んでしまったらそれは少し後悔するかもしれないけれど、そんなのはただのエゴにすぎない。

「で、告白はするの?」
「そんな大それたことできないしするつもりもないよ」
「そうかぁ。まあそうよね。教師と生徒の関係で軽々しく頑張れなんて無責任なことは言えないわ」
「今は先生と一緒にいられるだけで楽しいし充分だから」
「健気だなぁ!この!」

わしゃわしゃと髪を撫でられる。「せっかく野薔薇ちゃんがセットしてくれたのに」と言えば「今は許せ!」とさらに撫でくり回された。でも全然嫌じゃないから許すとかないんだけどね。

「いま何かを望むのはやっぱり難しいかもしれないけど、でも想いを伝えるだけならしたっていいと思うのよ私は」
「そう、かな」
「当たり前よ。なまえの気持ちはなまえだけのものなんだから。私たち呪術師はせいぜい悔いのないようにやるしかないでしょ?」

「私も後悔したくないからできるだけこうしてなまえといたいし」と野薔薇ちゃんはそっと私の手を包む。いつも呪霊を祓うその手も今日は薔薇のように真っ赤なマニキュアが塗られていて、薬指にのせられたスパンコールがポイントになっていて野薔薇ちゃんによく似合っている。

「うん。そうだね。いつか伝えられたらいいな」
「それをきっかけに先生がなまえのこと真剣に考える日だってくるかもしれないんだから。まあ私としては卒業後でも五条先生と付き合うってなったら?大層複雑だけどな?」
「逆に盛大に振られたら野薔薇ちゃんが慰めてね?」
「あったり前よ!そんときゃ何でも付き合うわよ。泣いて食べて遊んで歌って寝れば万事解決」

「むしろなまえが誰かのモノにならなくて喜んじゃうかもしれないわね」ニカッと歯を見せて笑う野薔薇ちゃんにつられて私も口元が緩む。
当たって砕けてもへっちゃらかも。自然とそう思えてくるのは、こんなにも私のことを思ってくれる親友がいるからだ。


2021/01/15
title:箱庭

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