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星座のようなロマンを秘めて

「あまりにもつまらないと逆に笑えてくるんだねぇ〜」
「そうなんだよ。やっぱ何回見ても最後のオチが意味わかんないわ」
「ほんとそれ!」

まだエンドロールが流れている途中で悠仁くんはディスクの停止ボタンを押してDVDを取り出す。
早々に夕食と入浴を終え、おうちデートならぬお部屋デートで悠仁くんの部屋で二人で映画鑑賞をしていた。ラブストーリーや感動モノではなくあえてB級を見るというのも、よくよく考えたらムードの欠片もなくてちょっと笑ってしまう。でも好きな人とこうしてくだらないことで笑い合えるささやかな時間がとても楽しいのも事実だ。

「23時か〜。なまえさんどうする?もう部屋戻る?」
「んーまだ戻りたくない、かな。もう少しだけ悠仁くんと一緒にいたい」

素直に口にしてみれば悠仁くんは良かったぁと安堵して微笑んだ。

「自分から言い出したけどほんとは俺もまだ一緒にいたかったんだ」
「ふふ、そっか。じゃあもうちょっとだけ一緒にいよ」

気遣いができて、けれど素直に本音も言える悠仁くんには恋人以前に人としても見習いたいなぁと思わされる。悠仁くんと付き合うようになってからの私は穏やかになったし、自然と笑顔も増えた気がする。
五条先生や伊地知さんなど年上に対してわりと物怖じせずにフランクに接しているけど、生意気さだとか常識がないとは思わないから多分悠仁くんは人の心に入り込むのがとても自然にできる人なんだと思う。それでいて無邪気な笑顔は年相応の少年だったり、拗ねた顔は子供みたいだったり、五条先生より大人なんじゃないかと思う時があったりするから結構ずるい。五条先生が子供っぽいだけかもしれないけれど。
今だって床に座っていたのに気付けば手を引かれて、そのまま二人でゆっくりと沈むようにベッドへ仰向けに寝転がった。手のひらに伝わる熱はあたたかくて、それだけでアロマを炊いてるみたいにリラックスできる。
気持ちよくて思わず瞼を閉じれば、衣擦れの音が可惜夜に冴える。

「やっぱり眠いの?」
「ううん。悠仁くんの手があったかくて。触れてるだけで色々満たされるというか」

そういえば触れ合ったりするだけでオキシトシンというものが分泌されるらしいとネットで見かけたことがある。多幸感とはなるほどこういうことか。

「俺も同じ。なまえさんの手はちょっと冷たいね」
「そうかも。だから余計恋しくなっちゃうのかも」

寝返りをうって悠仁くんの方を向けば自然と距離が近くなって、安らぎの中にわずかに欲が高鳴る。悠仁くんは照れ笑いを浮かべてきゅっと力を込めた。

「でもここで寝られたら俺、何もしないっつー自信ないかもしんない」

困ったように、でも視線は逸らさず、ぽつりとこぼした。それはつまりもっと触れたいとかそういうこと?そんなの私だって同じだ。
一緒にいるだけで充分なのは本当だ。けれど私よりも大きくてごつごつした手、見た目より筋肉質な身体、触れただけでわかる厚くて広い胸板。無邪気な笑顔に備わったそれに私だって何も感じないわけがない。恋してる時みたいにドキドキだってするし、触れたいと思うし触れられたいと思っている。

「すぐ隣で寝顔と変わらない表情見せられて緊張すんなって方が無理だよ。その、俺だって男だからさ」
「……そんなの私だって同じだよ」

もう少し一緒にいたいと言ったのは紛れもない純粋な本心だ。何かを期待して言ったわけじゃない。でも、悠仁くんにそんな風に言われたらいやでも期待してしまう。
呟いた私の言葉に悠仁くんはゆっくりと体を反転させて覆いかぶさってくる。
備え付けられた安っぽい蛍光灯に年季の入った壁紙。わずかに軋むベッド。悠仁くんが好きだという女優のポスター。すべてを包む日常のそれらが今は背徳感を高めるもののひとつでしかない。

「俺、なまえさんのこと大事にしたいからあんまそういうこと考えないようにしてたんだけど……でも好きだからこそもっと触れたいって思いもあって」
「うん、同じ。私もおんなじだよ。だから、しよう?」
「……ホントにいいの?」
「いいよ。……って自分で言っててなんか急に恥ずかしくなってきた!するなら早くしよう!?」
「なまえさん、せっかくの雰囲気が台無し」

甘いような酸っぱいような雰囲気がちょっぴり恥ずかしくてそんなことを口走ってしまった。悠仁くんの気の抜けた顔が大きく映る。けれどすぐに真剣な表情に変わって息を呑む。私は悠仁くんのそういうところに弱いんだ。好きだなあと思うんだ。

そうして交わる視線が物語る。指先が密着し、ゆっくりと重なり合った唇は静かな夜に溶けていった。


2020/12/24
title:まばたき

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