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秒針を超えた心臓

ひたすらに疲れた。今日はどれくらいの魔物を討伐したか覚えていない。というより途中から数えるのを辞めたといった方が正しいかもしれない。ざっと5時間くらいだろうか、立香ちゃんに頼まれた素材はおおよそは回収することはできたが何しろいろんな種類のものを要求されあちこちにレイシフトをしていたため肉体的にというより精神的にだいぶ参っていた。
カルデアは常時資材不足に追われている。それもそのはず、外界とのコンタクトが取れない分カルデアで賄えない資材に関してはさまざまな地から己の足を使って物資を調達していかなければならない。それを立香ちゃん一人で背負うのは酷なことだし現実的ではないので魔力が人並み以上にあるだけが取り得の私が資材補給班として度々出動していた。


「お疲れ様、マスター。今日もなかなかハードだったね」
「アーサーもお疲れさま。ずっと付き合わせてごめん」
「僕は君のサーヴァントだ。マスターが頑張っているのに休むわけにはいかないよ」


マイルームへと戻ってくると霊体化を解いたアーサーが声をかけてくれる。
彼は私が初めて契約をしたサーヴァントだ。他にも何人かとは契約を結んでいるが皆自由な性格であるため任務が終わったら即解散。図書室に籠ったりひたすらご飯を食べに行ったりと各々自由行動をとっている。だいたいこうしてマイルームまで着いてきてくれたり行動を共にしてくれるのはアーサーくらいだった。まあ別にそれを咎めるつもりもないし私としてはアーサーがいてくれるのなら別にいいかな、という感じでなんだかんだ良好な関係は保てている。

アーサーはいつも通りにルームの片隅にある簡易キッチンへと移動して紅茶を淹れる準備を始めてくれる。こうして任務の後にアーサーが淹れてくれる紅茶を飲むのが私の癒しになっていた。


「マスター。今日は新しい茶葉をダヴィンチ氏に頼んで仕入れたんだ。とはいっても紅茶ではなくハーブティーなんだけれどね」
「ハーブティー?」
「うん。今回手に入れたのはエゾウコギというハーブなんだ。これは特に精神的肉体的の疲労効果を和らげると言われていてね。他にも運動能力や集中力の向上にもつながるそうなんだ」
「そんなすごい効果があるんだ…」
「勿論飲んだだけで効果が出るというわけではないのだけれど。普段から頑張っているマスターにはピッタリのハーブだと僕は思うよ」
「せっかくアーサーが用意してくれたし、それをお願い」


アーサーは霊衣の甲冑の部分だけ器用に解いて動きやすい恰好になると、手際よくハーブティーの準備を進めていく。お鍋の中に水と適量のドライハーブを入れると軽く蓋をして沸騰をさせる。ふつふつとちょうど良く沸騰できると火を弱火に変えた。ハーブティーの淹れ方は少し手間がかかるそうで、アーサーが行っているのは煮出しという抽出方法だそうだ。よくもまあそう言った知識があるなぁなんてしみじみ思いながら私もティーカップやらちょっと前にマリーから譲ってもらったお菓子をテーブルの上に広げた。


「待たせてしまって済まない。あと10分ほど蒸らせばできあがるから待っててほしい」
「うん。ありがとう。…そうだ、アーサー」
「ん?なんだい?」
「あの服装にしてよ、ホワイトローズ」


先日ダヴィンチに用意をしてもらった純白の礼服。あの時はイベント事だから、と着てくれていたがここ最近は一人だけ畏まった格好をするのはなんだか気恥ずかしい、なんて言って普段から着慣れている蒼銀の甲冑を身に纏っていた。せっかく用意してくれたからどこかでまた着てほしいと思っていたし、今は目の保養がほしいところだ。おねだりをしてみれば彼は困った顔をしていたが、仕方ないなぁなんて苦笑をして見せて魔力を込める。淡い光がアーサーを包んだかと思えば彼は私の要望通りの白い礼服を身に纏っていた。


「この格好は少し恥ずかしいんだが君のお願いとなると嫌とは言えないな」
「ふふ、有難う。アーサー」
「後で相応の魔力供給を期待しておくよ」


ぱちりとウインクを見せられる。私だってアーサーのお願いを断れないことがわかってるから、アーサーも大概だ。


「さて。そろそろ出来上がるころだ。マスター、座って待っていて」
「はぁい。アーサーも一緒に飲みましょ」


アーサーに促されて席へ着く。彼は私の言葉に嬉しそうに頷くと「君とこうして過ごす時間は至福の時だね」なんて他意もなくひどく恥ずかしいことを言うもんだから、ちょっとだけ動揺した。確かハーブティーと言えば気持ちを落ち着かせる効果があるはずだ、もちろん即効性があるわけではないとはわかってはいたが、それでも早く飲みたくて仕方なくなった。

masquerade様の3万打記念で、アーサーにひたすら甘やかされるお話をリクエストさせて頂きました!

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