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瞳の奥に恋が揺らめく

「一人の女としてなまえさんの事が好きです」

 彼からそんな告白をされたのは今から二週間前。真剣な眼差しで私を見る彼の瞳は透き通るように綺麗で、その美しさに吸い込まれそうになった。
 私の事を異性として見てくれている事は素直に嬉しい。きっと彼の事だからシビュラシステムの恋人適正判定が出たから言った、などというわけではないんだろう。しかし私はその告白をすぐに受ける事が出来なかった。その理由は恋愛において女なら誰でも気にするであろう年齢差。世間では、シビュラが決めた相手がたとえ歳の離れた相手だったとしても幸福が手に入るなら気にしない人がほとんどなのだと思う。けれどやはり自分が相手よりも年上という事実は少なからず私の中で付き合う上ではネックだった。もちろん彼がそんな事を気にする人ではない事くらいわかってる。でも――。

「いい加減応えてあげたら?」
「うーん……」

 公安局の敷地内にある屋外の休憩スペースで志恩と二人でお茶をしながら告白された日の事を話せば、志恩は少し呆れ気味にそう言った。

「めげずに何度もアタックするなんて、慎也くんってば相当なまえさんの事が好きなのねぇ〜。ここまで熱心に気持ちをぶつけてくる男って今の時代じゃ珍しいわよ?」
「確かにそうね」
「なまえさんだってさ、別に慎也くんの事が嫌いってわけじゃないんでしょ?」

 「何をそんなに悩む事があるのよ?」と紫煙を吐きながら言う志恩に返す言葉が見つからず、黙ったままコーヒーに口をつける。コップの中で揺れる黒の液体が自身の浮かない顔をはっきりと映し出す。
 志恩の言う通り狡噛くんの事が嫌いなわけじゃない。むしろ好きだ。お互い監視官から執行官に落ちた身だけど、監視官の頃から彼の事を知っていたから、一人の人間として彼を年下ながらも尊敬しているし魅力的だとも思ってる。けれどそれがいつからか異性として見るようになっていた事に気付いたのは、ごく最近。――多分告白された時から。

「もしかして年齢?年の差って言ったってたかが二つじゃない。大体、好きになったら年齢なんてどうでもよくなるわよ」
「そういうものなのかしら……」
「そういうもんよ。……あ、噂をすれば」

 「ほら、あそこ」と志恩が送る視線を追うように振り返って入り口を見れば、そこにはちょうど話題になっていた狡噛くんの姿。しばらくして目が合ったと思ったらこちらに向かって歩いてくる。それを見て何か察したのか志恩は「じゃあ私はそろそろ戻るわ。……いい報告しか聞かないからね」と吸っていた煙草を携帯灰皿に捨てて立ち上がった。

「え、ちょっと……!」
「一途に想われるって事がどれだけ幸せか、知ってみるのも悪くないんじゃない?」
「…………」
「じゃね」

 そう言って笑みを見せて去って行く志恩を見送れば、少しして入れ替わりで狡噛くんが目の前に現れる。それからさっきまで志恩が座っていた席に座っていいかと聞かれて、少しうろたえながらも「どうぞ」と一言答えれば狡噛くんはゆっくりと腰を下ろした。

「唐之杜と何話してたんですか?」
「え?えっと、狡噛くんの事……」

 唐突に聞かれたそれにはぐらかす余裕がなかったため素直に答えてしまった。……何だろう、急に恥ずかしくなってなぜだか狡噛くんの顔がまともに見れない。

「……なまえさん」
「何でしょう……」
「あの時と気持ちは変わってません。俺はなまえさんが欲しい」
「っ、」

 あの時と同じ、真剣な眼差しで彼は言った。その瞳はあの時と変わらず透き通るように綺麗で、しかし唯一変わった事はその美しさにもう吸い込まれている自分がいるという事。「一途に想われるって事がどれだけ幸せか、知ってみるのも悪くないんじゃない?」――志恩の言葉が脳内でリピートされる。
 彼が私のどこを好きになってくれたのか、なんで私なのか、わからない事はたくさんある。でも嬉しかった。……もしかしたら私は恋をいうものを難しく考えていたのかもしれない。だから年齢を気にしたりして狡噛くんの気持ちに真っ直ぐに向き合えなかった。でもここまで一途に想ってくれる狡噛くんを見たら、私もその想いに応えたいと強く思った。

「……本当に私でいいの?」
「前から言ってるじゃないですか。それに俺、諦め悪いですから」

 ああ、もう、なんでそんなに真っ直ぐなの。いつの間にか私の方が虜にさせられてるじゃない。

「後悔、しても知らないよ?」
「いらない心配ですよ」

 そう言って笑みを浮かべる彼は普段からは想像もつかないくらい柔らかくて、猟犬なんて言われている要素など一つもない。むしろ喜びで尻尾を振る犬みたいで、そのどこか幼くも大人の余裕を感じさせる彼にらしくもなく胸が大きく高鳴った。


2016/05/11
title:確かに恋だった

・年上執行官
・夢主にめげずに告白する狡噛

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