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君という名の花

「桜が見たい。連れてって」

 彼女はいつだって急だ。でもそういうところは嫌いじゃない。はっきり言ってくれるということは自分の気持ちに正直って事だから。ただ――

「そういえば桜の開花日って今日だったか?」
「そうよ。そんなことも覚えてないの?ちゃんとテレビ見なさいよ」

 いつも上から目線な物言いがどうにも気になって仕方ない。はにかみながら言えばまた変わるだろうに……本当に可愛くない奴だ。なんでそんな彼女と付き合ってるのか、自分でもたまに疑問に思う。

「悪かったな」
「そう思うなら自慢の車かっ飛ばして行ってちょうだい」



「見頃なだけあってよく咲いてるな。……綺麗だ」

 あれからすぐに車を走らせ、近くの名所までやって来た。
 桃色に咲くそれを眺めながらゆっくりと歩き、隣のなまえに視線を移せば黙りこんだまま首を斜め上に上げて咲き乱れる桜をただただ見つめていた。その横顔はいつもと変わらずポーカーフェイスだが、カメラのシャッターを切る姿は心なしか楽しそうに見える。同時に、花のように綺麗だとも思った。
――ああ、そうか。たまに見せるその顔に釘付けにされるから彼女と離れることが出来ないんだ。
 心のざわめきを表すかのように風が吹く。葉の揺れる心地よい音が耳に響き渡り、舞った桜の花びらがなまえの揺らめく髪にひらひらと落ちる。

「なまえ、花びらついてる」

 振り向いたなまえのしなやかな髪に触れて花びらを取れば、一瞬面食らった顔をするもすぐにポーカーフェイスで「口で教えてくれれば自分で取るから」と手を払い除けられる。

(こういうところは素直じゃないんだな)

 だが桜と同じ色に染まった頬を見れば自然と口角が上がる。――わかりやすい照れ隠しならそれも悪くない。……ちゃんと可愛いところもあるじゃないか。
 スマホを取り出し、先を歩くなまえの後ろ姿を桜の木と一緒にこっそりとレンズに収めた。


2016/03/23〜2016/04/13
2016/03/22

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