レンズ越しの思惑
朝、コンタクトを着けようとしたら眼がゴロゴロして痛くて着けられなかった。病院に行こうにも朝からポアロのバイトだったため、診てもらうのは終わってからにすることにし、とりあえずと家で使っている眼鏡をかけて来た。
「あれ?今日は眼鏡なんですね」
ポアロに着いて開店前に休憩室で目薬を差していた時。準備を終えたらしい安室さんに声を掛けられた。眼鏡を外してる時に見ても顔ははっきりとは見えないけど、声でわかる。
「そうなんです。朝コンタクト着けようとしたら痛くて……」
「大丈夫ですか?」
「多分大したことはないと思いますけど……」
そうして眼鏡を掛けようとした時、安室さんにその手をつかまれて阻止される。
「ちょっと、見せて下さい」
手をどけられて真正面から至近距離で顔を覗かれる。コンタクトを入れている時だったら恥ずかしくて確実に突き飛ばしているに違いないそれだけど、裸眼なせいかそういう気持ちは全くない。むしろ見えなくて逆に恥じらいもなくじっと見てしまう。それでも、ぼんやりとしか見えないけど。
「…………」
「……安室さん?」
「ああ、すみません。……眼の方は特に異常は見られませんね」
「本当ですか?良かった」
「でも病院には行って下さいね」
「はい」
「でないと僕が困りますから」
「?」
どういう意味かわからず頭に疑問符を浮かべていたら、安室さんは私の眼鏡を取って言った。
「僕だっていつまでもその無防備な顔を、ただ何もせずに見ていられるわけじゃないんですよ」
眼鏡を掛けられてパッと視界がクリアになる。そのレンズの先には意味深な笑みを浮かべる安室さんがくっきりと映っていて。
一気に速まる鼓動に上がる熱、そして染まる頬。けれどそんな体の反応とは裏腹に、ひとつの思いが脳内をよぎった。
――眼鏡、壊しちゃおうかな。なんて。
2016/03/04〜2016/03/22
2016/03/03
back