赤井さんと料理
「昴さんだと料理してる姿とかエプロン姿とか似合っててしっくりくるけど、赤井さんだと違和感が拭えませんね」
「一番の原因は見た目だろうな」
「あー、確かにそうかもですね。赤井さん全く料理しなさそうに見えますし」
「実際料理をし始めたのは沖矢昴になってからだしな」
なんて言ってる赤井さんだけど、今じゃエプロンも着こなしてるように見えるし、包丁さばきもなかなかだ。
今日は、レパートリーを増やしたいという赤井さんに「何か教えてくれ」と頼まれた私は肉じゃがを教える事にし、工藤邸へとやって来た。隣で手順を教えながら時折アドバイスしつつ赤井さんを見守っていた。
私が洗って皮を剥いたじゃがいもやにんじん、玉ねぎを渡せば、赤井さんは慣れた手つきで切っていく。
「玉ねぎはくし切り、にんじんは乱切り――切り方もちゃんと覚えてますね」
さすが優秀なだけあって飲み込みが速い。なんか私が教える必要なんてないような気がしてきた。
「しばらく見ない間にずいぶん上達してますし、私いらなかったんじゃないかな?」
「そんなことはない。口で説明してもらった方がわかりやすい」
「そう?」
「それにたまには二人でこういうのも悪くないだろう?」
「っ……!」
不意打ちの笑みに思わず照れてしまい、話を逸らすように「次は味付けだね!」としどろもどろになりながら調味料を用意する。後ろから小さく笑う声が聞こえたけど、知らないふり。
「何事も味付けが一番重要です。分量間違えないで下さいね。今回も期待してますから」
「あまりプレッシャーをかけないでくれ」
「涼しい顔して何言ってるんですか」
赤井さんはそう言ってるけど、恐らく動じてない。私なりの、ドキドキさせられた仕返しのつもりだったけどやっぱり効果はないみたいだ。
それぞれの調味料を入れて2〜3分置いたあと、小皿に取った出汁を入れて私に差し出す。
「味見、頼む」
「さてどうかな〜……、うん、大丈夫です。完璧!」
「じゃああとはしばらく煮込むだけだな」
赤井さんは鍋に蓋をしてエプロンを外す。
「なまえ」
「何?」
「出来上がるまで時間がある。先に風呂にでも入ってこい」
「え、でも支度とかあるし……」
「構わん。俺がやっておく」
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらうね」
「ああ」
……なんかこのやり取り、今思えばちょっと恥ずかしい……!なんて言うかその、俗に言う新婚生活とやらみたいで……。
そんな私の心情が伝わってしまったのか、エプロンを外してキッチンを出ていこうとした時、赤井さんが後ろで小さく呟いた。
「こういう毎日もいいかもしれんな」
「!」
その言葉の意味は深く考えないようにしよう――心の中ではそう思ってるのに、胸の鼓動は増すばかりだった。
2016/02/11〜2016/03/03
2016/02/11
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