安室さんと料理
寒さが身に染みるこの季節の定番と言えば、やはり鍋だ。調理も、野菜を切って入れるだけだし簡単で手軽に出来るからついつい鍋ばかりになってしまう。
今日も「寒いね」と話しながらスーパーへと行き、鍋の食材を買って帰って来た。
「じゃあ僕が野菜を切るから、なまえは食器とガスコンロの準備をしておいてくれるかい?」
「わかった。……なんかごめんね、何から何まで任せちゃって……」
「鍋なんて野菜を切るだけだから別に気にすることはないよ」
「ん、ありがとう」
キッチンで手際よく野菜を切る透君の後ろ姿を見つめながら、お箸やお皿を食器棚から取り出す。
何でもそつなくこなせる彼にとって、どうやら料理もそのうちのひとつのようで。一緒に作ることもあるけど、こうして透君が作ってくれることの方が多い。女としては少々複雑だけど、実際私よりも上手いからここは余計なことは言わずに素直に任せることにしている。
テーブルに食器を並び終えてキッチンへと戻れば、鍋いっぱいだった野菜は水分を含んでしなり、いい感じにグツグツと音を立てていた。
「もうすぐ出来るよ」
「今日は何味?」
「なまえが好きなキムチ味だよ」
「ほんとに?楽しみ」
「……ん、こんなもんかな」
「はい、」
透君が火を消したのを見計らって引き出しから鍋つかみを取って差し出す。前に出かけた時に雑貨屋さんで見つけてあまりの可愛さについ買ってしまった、動物がモチーフの鍋つかみ。パクパクさせるとパペットみたいで「これいいね」なんて二人で言いながら買ったのを思い出して笑みが浮かぶ。
「ありがとう」
「私ね、透君がその鍋つかみ使ってるところ見るの好きなんだ。なんか可愛くて」
「そこは『料理する姿がかっこいい』って言って欲しいかな」
「それは前から思ってるよ。エプロン姿とか、料理してる時の背中とか、すごくかっこいいよ」
「そうかい?ならいいけど」
ふふっ、と二人で笑い合った後、リビングへと行き鍋をセットして腰を下ろす。
「じゃあ食べようか」
「うん。いただきます」
「今日は一段と寒いから、いつもより辛めにしてみたんだけどどうだい?」
「美味しいよ!ちょうどいい辛さで体も温まる〜って感じ」
「良かった」
透君は味付けもさすがだなぁ。こうして振る舞ってもらえるのも嬉しいけど、やっぱり二人で肩を並べながらご飯作りたいな。
「ねぇ、透君。今度の休みさ、エプロン買いに行かない?」
「今のまだ使えるけど……」
「そうだけど、そうじゃなくて……お揃いの。それ着けて一緒に料理したいかなぁ、なんて」
「……なんかそれ、典型的なバカップルの象徴みたいだけど」
あはは、と透君は眉を下げながら笑う。透君がどんなエプロンを想像してるのかはわからないけど、さすがにあからさまにハートがプリントしてあるようなものは私だって恥ずかしい。
「えっ!?そうかな?」
「僕から見たらそう見えるけど……」
でも、困ったように笑う透君を見たらそれでもいいかな、なんて思ってしまったのは言わないでおこう。
2016/02/11〜2016/03/03
2016/02/11
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