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冬が好きになる瞬間

 仕事を終え帰り支度を済ませてエントランスへと向かえば、外は雪がちらちらと舞っていた。幻想的でキレイだけど、やっぱり寒いのは嫌だなぁ……と複雑な気持ちで扉越しから舞い散る雪を眺める。いつになく気落ちしている理由なのは寒いのが苦手なことに加え、あろうことかマフラーを忘れるという失態を犯してしまったから。かといっていつまでも立ち往生しているわけにもいかない。短く息を吐いて駅までの我慢だ!と覚悟を決めて出ようとした。

「何してるんだ?」

 すると一歩踏み出したところで誰かに呼び止められる。振り返ってみればそこにいたのは上司である降谷さんだった。暖かそうな上着にマフラーを巻いている姿が羨ましくも憎い。

「いや、雪降ってて寒そうだなぁと思ってちょっと渋ってたんです……。マフラーも忘れちゃったし……」
「この時期の夜は冷えることくらい予想出来るだろ」
「その通りなんですけど朝バタバタしてたものだからつい……」

 苦笑いを浮かべれば降谷さんは「そんな間抜けでよく刑事が務まるな」とため息まじりに言う。バカにされてるんだろうけど強く言い返すことは出来ないため再び苦笑いを見せるしかない。

「全く、世話の焼ける部下だな」

 不意に言葉と共に身に付けていたマフラーが目の前に差し出される。

「え?」
「風邪引かれても困るから」
「でも、それじゃ降谷さんが……」
「人の心配なんかしてる場合か?」
「それは、その……」
「日頃から気を引き締めてないからこうなるんだ」
「う……、これからは、気を付けます……」

 「わかればいい」と言われてもしかして説教されてた?と思うも、これが降谷さんなりの優しさなのかななんて思ったら心まで暖かくなった気がした。
 受け取ったマフラーを巻けば体も暖かさに包まれ、微かに降谷さんの匂いが伝わってきて思わず胸が高鳴る。

(男の人の匂いがする……)

「明日ちゃんと忘れずに持って来いよ」
「はい。ありがとうございます」

 「帰るぞ」と先を歩く降谷さんの後を追う。
 マフラーに手を添え、寒いのも案外悪くないかもしれない、なんて思いながら降谷さんに気付かれないようにそっと微笑んだ。


2015/11/29〜2016/01/09
2015/11/28

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