互いが望むもの
「クリスマスの日に休みが取れたなんて珍しいね」
「取れたというより取らされたと言うべきだな」
「赤井さんの隈があまりにも酷すぎたからじゃない?」
車内から雪の降る空を眺めながら笑うと「それはいつものことだ」と赤井さんは真顔で答える。……自覚はあるんだ。
「……同僚に言われてな。仕事だからと言ってそれにかまけて恋人を蔑ろにするとバチが当たるとな」
「別に私は気にしてなかったよ。赤井さんの仕事をわかった上で一緒にいるんだから」
それに会えないと思ってた分、不意打ちで会えた時の嬉しさは倍になるからそれはそれで悪くないかなーなんて思えるしね。とは言えやっぱりクリスマスに一緒にいられるのは恋人としてはとても嬉しいことだ。
「それでさ、言い訳になるかもしれないんだけど……まさか今日会えるとは思ってなかったからプレゼント、用意してないんだ……ごめん」
サプライズとか苦手だから、ちゃんと赤井さんに欲しい物を聞いた上でプレゼントしたいと思ってたし……。
「謝らなくていい。俺も用意する時間がなかったからな」
「じゃあさ、今から買いに行かない?赤井さん何が欲しい?」
「いや、その必要はない」
「え?」
疑問に思って赤井さんを見れば、「俺の欲しいものはすぐ近くにある」と言って顎を持ち上げられる。フッ、と意味深な笑みを見せる赤井さんを見て、言いたいことを理解する。
「……もしかしてキス……とか?」
「その通りだ」
「でもそれってプレゼントをごまかすための常套句みたいでなんか嫌」
もちろん赤井さんにその気がないのはわかってる。私自身も別に形ある物が欲しいわけじゃないし、そんなことを本気で思ってるわけでもない。むしろそれだけで十分だ。そう思いつつも口を尖らせてそう言えば、赤井さんは妖しげに口角を上げる。
「お前が本気でそう思っているなら無理強いはしないが?」
「……意地悪、」
どんなプレゼントよりも、私にとってそれが一番嬉しいものだとわかっていてわざとそういう風に聞いてくる赤井さんは本当に意地悪な人だ。
「お互い様だと思うがな」という言葉と共に唇へと伝わってきた柔らかな熱は、外に降る雪さえ融かしてしまうほどに甘かった。
2015/12/21〜2015/12/25
2015/12/21
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