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とろけだした午後

 とある休日――少年探偵団から遊びのお誘いを受けた私は阿笠博士の家にお邪魔していた。
 どうやら博士が作ったゲームソフトで遊んでいたらしいけれど、ラスボスが強くてなかなか倒せずにいたらしい。留守番を頼まれて同じく博士の家にいた昴さんに、ゲームが得意な私を呼んでみたらと助言を受けたようでその連絡を受けて今に至る。

「なまえお姉さんすごーい!」
「このボスとても強くて僕たちが何度やっても倒せなかったのに、一発で倒すなんてさすがです!」
「やっぱ姉ちゃんマジすげーな!」
「そ、そう?ありがとう」

 子供たちの眩しい笑顔につい笑みがこぼれる。つらつらと流れるエンディングを横目に、楽しそうに「次はこのソフトやろうよ!」などと話している三人を見ていれば、いつの間にかキッチンにいた昴さんがすぐそばまで来ていた。

「子供たちが苦戦していたラスボスを一発で倒してしまうなんてさすがですね」
「いや、そんな事……」

 穏やかな笑みを見せる昴さんに頬に熱が集中して思わず俯いて呟く。よく子供たちに誘われてこうしてゲームなどをしたりするけれど、今日のように昴さんと話せる事が私の中で密かな楽しみでもあった。正直なところ、探偵団のお誘いを口実にここに来てるようなものだ。

「……ちょうどゲームも終わったようですし、なまえさん、少し手伝っていただけますか?」
「あ、お昼ご飯の準備……ですか?」

 壁に掛けられた時計に目をやればちょうど二つの針が真上を指していた。

「ええ。カレーなんですが後はルーを入れて煮込むだけなので」
「わかりました」

 コントローラーを片付け、ちょうど流れ終わったエンドロールを見てゲームの電源を切る。そのまま二人でキッチンへと行けば、盛り上がっていた子供たちもお腹が空いたのか興味津々で私たちの後をついてきて出来上がりを待つようにカウンターに腰掛けた。
 エプロンをつけて手を洗い、早速すでに煮込まれているそれにルーを加えてゆっくりとかき混ぜる。徐々にルーが溶けていくと同時に食欲をそそる匂いが部屋に漂う。しかし唐突に歩美ちゃんから発せられた言葉に、手にしていたおたまを落としそうになった。

「なんかこうやって見るとなまえお姉さんと昴のお兄さんってカップルさんみたいだね!」
「へっ!?」
「お似合いだよ!」

 いきなり何を言うかと思えば……!女の子の好奇心――特に恋愛関連は正直すごく心臓に悪い。子供はこういう事を純粋な気持ちで聞いてくるから余計にだ。動揺を隠せず歩美ちゃんの言葉から意識を逸らそうと集中するようにぐるぐるとお鍋の中をかき回していたら、昴さんに「さすがに混ぜすぎですよ、なまえさん」と小さな笑みとともに注意をされてしまった。

「あっ、ごめんなさい……!」

 恥ずかしさに包まれながらすぐに謝るも、心臓はこれでもかというほどにドキドキしていて緊張で手も震えていた。

「僕はお二人は付き合ってるんだと思ってましたけど……違うんですか?」
「オレもだぞ!兄ちゃんと姉ちゃんって付き合ってるんじゃねーのか?」
「ち、違うよ!私たちは別にそういう関係じゃ……!」
「じゃあじゃあ、昴のお兄さんはなまえお姉さんの事どう思ってるの?」

 そう言った歩美ちゃんの顔はとてもキラキラしていて、その楽しそうな表情を見たらさすがに制止なんか出来なかった。そもそも思ってても私はそういう事は強く言えない性分だし……。でも昴さんがなんて答えるのか、それを聞くのはすごく怖かった。

「そうですね……とても魅力的な女性だと思ってます」
「それってなまえお姉さんの事が好きって事?」
「ええ」
「!?」

 「じゃあ両思いって事ですね!」と言う光彦君の声に私はもう内心気が気でなかった。というか子供たちに昴さんが好きって事は言ってないはずなのにこういう流れになっているという事は、恐らくだけど、子供たちには気付かれているわけで……。私、そんなにわかりやすい振る舞いしてたかな……。
 盛り上がる三人の声がBGMのように聞こえる中でチラリと隣の昴さんに目をやれば、ふと目が合って返事をせざるを得ない雰囲気に包まれて緊張で息が止まりそうになる。そもそも昴さんが私を好きだなんてそれこそ信じられない。
 何も言えずに自身の体に起こっている異常なまでの熱と鼓動と呼吸をどうにかして落ち着かせようと必死になっていれば、隣に立つ昴さんがふと私だけに聞こえる声で「良ければ返事、聞かせてもらえませんか?」と小さく囁いた。

「えっ、い、今ですか……!?」
「口に出すのが躊躇われるのなら、言葉でなくても構いませんよ」

 それは昴さんの告白に対して私も同じ気持ちだという事を言葉以外で伝えられればそれでいい、という意味なのだろうか。ふと昴さんから子供たちに視線を移せば、未だに私たちの事で盛り上がってるようでこちらを見る気配はない。

(伝えるなら今しか……)

 高鳴る鼓動を全身で感じながら、私は意を決して隣り合って並ぶ昴さんの手にゆっくりと自身の手を伸ばし、おずおずとその指先に触れた。これなら向かいにいる子供たちからは見えないから大丈夫……なはず。顔が赤くなってる事を指摘されてしまったらごませる自信はないけど……。
 男の人だと感じさせる大きい手にさらに鼓動が高まって、ゆっくりと昴さんを見上げれば私の想いが伝わったのか、微笑みとともに触れていた指先がさっきよりも密着して絡まる。それがたまらなく恥ずかしくて、私は何も言えずにたださらに赤く染まっていく頬を隠すように俯くしかなかった。


2016/05/21
title:箱庭

昴さんのアプローチに気付かない夢主を、昴さんが探偵団の前で恋人のような振る舞いをして気付いてもらおうとする話

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