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下りた瞼に幸福をみる

 ここ最近、目立った事件や大きなテロなどもなく街もFBI本部も穏やかだった。といっても事件が起きていないだけで、提出しなきゃいけない報告書やまとめなけきゃいけない事件の捜査資料などやる事は山ほどあるんだけどね。

「んー……!」

 キリのいいところでパソコンを閉じて両腕を上に伸ばしてストレッチをする。隣のデスクに視線を移せば秀君はコーヒーを飲みながらまったりしていた。やっぱり仕事速いなぁ。綺麗に片付いているデスクが秀君の手際の良さを表している。私も早いとこ終わらせなきゃ。でも、その前に息抜きに少し休憩したい。

「秀君」
「何だ?」
「息抜きしにちょっと外に出ない?」
「……そうだな。今日は天気がいい」
「だね〜」

 そのまま二人で室内を出て、敷地内にあるベンチまで行って腰を下ろす。ここはあまり人が通らないから静かでゆったりするには最適な場所なのだ。だから秀君と二人きりになりたい時は密かに毎回ここを提案する。もしかしたら秀君はそんな私の思いに気付いてるかもしれないけど。
 ただ何を話すわけでもなく暖かい日差しを浴びながらまったりとした時間を過ごす。この穏やかな時間がたまらなく好き。たまに吹く頬を撫でるような柔らかい風が気持ち良くて、リラックス出来る空間に思わずあくびが漏れる。

「日光浴って気持ちいいねぇ〜……」

 全身の力を抜くようにして隣の秀君にこてん、と頭を預ける。ああ、このまま目を閉じたらすぐに寝ちゃいそうだ。

「一度寝たらなかなか起きないお前を起こすのは大変だ。寝るなよ」
「わかってるよぉ〜。それより秀君は眠くないの?というよりちゃんと寝てる?」

 ゆっくりと頭を起こして「いつも目の下に隈出来てるから心配しちゃうよ」なんて、昔からずっと変わらないそれにわかりきっていながらもそう声をかけて目の下に触れる。

「なまえといる時は比較的良く眠れる」
「その言葉、嬉しいけど照れちゃうな」
「事実を言ったまでだ」

 「今さら照れるような事でもないだろう」なんて秀君は言うけれど、幼馴染として一緒に過ごして来た時間が長かったから、こうして恋人として同じ事を言われると何だか照れくさい。それに、昔はあまりしなかった微笑む表情とかを見せるようになったからなおさら。

「そういえば昔はよく秀君に膝枕してもらってたよね」
「俺がしてた、というよりなまえが勝手に乗ってきた、が正しいと思うが」
「えー、そうだったかな?そんな昔の事覚えてないよ」

 なんて言ったけど本当はちゃんと覚えてる。小さい頃から秀君が好きで気を引きたくていつもやってたから。まあその頃は一人の男性っていうよりお兄ちゃん的な憧れの方が強かったかもしれないけど。
 年齢を重ねるにつれて男女を意識し始めるようになってからはそういう事はあまりしなくなったけど、こうして幼馴染から恋人になれたのだから久しぶりにしてもらうのもいいかもしれない。でも、その逆は今まで一度もなかったから今日は私が秀君を膝枕したい。付き合ってるのに秀君はあんまり甘えてくれないから……。少しくらい、私に甘えて欲しい。

「ねぇ、秀君。天気もいいし、ここで二人で昼寝しない?」
「……そんな回りくどい言い方しないではっきり言ったらどうだ?」
「えっ、」
「昔から見てるんだ。なまえの言いたい事くらいわかるさ」

 そうして柔らかく微笑む秀君に胸がきゅんとなる。ずるいな、今までそういう顔全然見せなかったのに……。付き合い始めてから何度この表情に胸を高鳴らされた事か。
 そのまま「端に寄れ」と言われて言う通りにベンチの端に移れば、そのまま秀君の頭が太ももに乗っかる。体格差とか、男女の違いがある事はわかっていたけど……初めて自身の体で感じたその重みに、今さらながらに秀君は男性なんだと改めて実感させられた。

「十分、」
「?」
「十分したら起こしてくれ」

 「ゆっくりは出来ないが、なまえがいるならそれだけあれば十分だ」とすでに目を閉じた状態で秀君はそう呟く。その顔は綺麗に整っていて、つい見惚れてしまう。いつの間にこんなに格好良くなったんだろう……。いや、秀君は昔から格好良かったか。

「わかった。ゆっくり休んでいいよ」

 優しく握られた手から伝わる温もりに自然と笑みがこぼれる。なんて事のない何気ない日だけど、こうしていられる事が何よりも幸せだ。

 空を見上げ、陽だまりの中でそっと瞼を下ろした。


2016/03/26
title:まばたき

・FBIの同僚で幼なじみ兼恋人
・夢主が膝枕する話

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