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I'm addicted to you.

 朝、カーテンの隙間から差し込む光で安室は目を覚ました。せっかくの久しぶりの休日でまだ寝ていたいのに、普段と変わらずにしっかりと目が覚めてしまう自分の体内時計の正確さを恨む。規則正しい生活のはずなのに何だか損をした気分だ。
 ハァ、と小さく息を吐いてから隣で寝ているなまえに視線を移すが、そこはもぬけの殻だった。どうやらもう起きているらしい。彼女が起こしに来るまでベッドの中にいるか……と考えていれば、不意にドアがガチャリと開いた。

「安室さーん、朝だよ〜!起きて〜!」

 安室が声のする方へと視線を移せば、「寝起きの安室さんもカッコイイ……!」となまえは朝から普段と変わらない顔を見せる。

「おはようございます」
「今日はどうしたの?私より後に起きるなんて珍しいね」

 ふふっ、と笑いながらなまえはベッドまで行き、自分が寝ていた枕元に腰を下ろす。楽しそうな顔でそう言うなまえを見て安室は、これが幸せというのだろうか、と柄にもない事を思う。その笑顔が自分だけに向けられているのだと思うと、純粋な嬉しさよりも独り占め出来ているという独占欲がなぜか勝る。だがそう思うのも仕方ない。何せ鈍感な彼女を振り向かせるまで今までにないくらい苦労をしたのだから。

「僕が遅いのではなくなまえさんが珍しく早起きなんですよ」
「うーん、別に早起きしようとして起きたわけじゃないんだけど……でも安室さんの寝顔が見たいっていう気持ちは前からあったかな!安室さんいつも私より後に寝て先に起きるから全然見れないし」
「じゃあ今日は貴重ですね」
「まさに!」

 まだ一日が始まってもいないのに何気ない会話だけで今日がいい日だと思えてしまうのは彼女がいるからだろうか。それともこうして付き合い始めて今まで知らなかった一面を知るようになったから?……理由なんてなんだっていいか。
 なまえの嬉しそうな顔を見ながら「今日は家でのんびりしませんか?」と安室が提案すればなまえは「え〜!?」と不服そうな顔をする。

「たまにはいいじゃないですか」
「天気もいいし外に出ないともったいないよー!どっか行こうよ!」

 なまえの好奇心旺盛な性格は今に始まった事ではない。だが今日くらいは昼までベッドで寝転がっている時間があってもいいだろう。安室はなまえの言葉を無視して、腕をつかんで半ば強引にベッドへと引きずり込む。

「ちょっと安室さんっ」
「今日くらいこういう日があっても悪くないでしょう」

 向かい合うように体をなまえの方へと向けて腰を抱く。一気に縮まった距離からふわりと香る安室の匂いに、なまえは無意識に安室の胸に顔をうずめていた。ドキドキしながらも安心出来る温もりと香りに、つい酔いしれそうになる。安室も、シャンプーの香るなまえの髪に顔を寄せて目を閉じた。女性らしい匂いと柔らかな温もりを心ゆくまで感じ、しばしの間その空気感を味わう。
 だがそれは数分もしないうちに終わりを告げる。なまえが急に「ハッ!!」と声を出したからだ。

「……どうしたんですか?」
「ああ、ダメダメ!」

 せっかく滅多に味わえない朝のひとときを体験していたのに、なまえの一言であっという間に甘くなりかけた空気は消えてしまった。彼女も乗り気だったはずなのに、気付けば自分の腕からすり抜けてベッドから出ようとしていた。その気にさせるだけさせておいてそれはさすがにないだろう。
 安室からしたらそれが何だかあからさまに騙されたような気がして、このまま見過ごす事は出来ないと急いでなまえの腕をつかんで引き止める。

「さすがにそれはないんじゃないですか?」

 まだキスのひとつもしていないのにこの仕打ちはあんまりだ。だがそんな安室の思いになまえは気付かない。

「え?そんな事より急がなくちゃ!こんなところでのんびりしていられない!」
「だから一体何なんですか」

 あっさり無視された事が自分の気持ちを軽く扱われているように感じて安室は思わず一瞬眉間にシワが寄ったが、今は目をつぶる。それよりもまず、肝心の理由がわからなくてはこの気分の解消法も見つからない。

「今日スーパーの特売なの!お昼までの激安商品とかあるから今すぐ行かなきゃ間に合わない!それと新作のお菓子も発売されたからチェックしないと!」

 俺はスーパーの特売に負けたのか、と内心項垂れる。彼女が決してわざとやっているのではない事がわかるから余計にどうしようもない気持ちになる。
 安室の行き場のない思いは大きなため息となって部屋に充満する。

「あ、あと朝ご飯!早く食べなきゃ冷めちゃう!ほら、安室さん起きて!!」

 思い出したようにそう言ったなまえに、安室はぐいっと腕を引かれてされるがままに上体を起こされベッドから連れ出される。
 本当はこのまま彼女の腕を引いて再びベッドの中へ連れ込む事など簡単だ。だが目の前の彼女を見ているとそんな思いはあっさりと崩されてしまい、不思議と「まあいいか」なんて思ってしまうのだ。
 なまえが安室の腕をつかんだまま部屋を出ようとした時、今度は「あ、」と立ち止まって安室の方を振り返る。

「言われなくてもちゃんと付き合いますよ、買い物」

 なまえが何かを言う前に安室があきらめたように笑って言えば「え、あ、ありがとう!でも違うの!」と言う。じゃあ何だ?と思いながらなまえを見れば、なまえは不意に距離をつめて――触れるだけのキスをした。
 安室が珍しくらしくない驚いた表情でなまえを見れば、なまえはほんのり頬を赤らめて一言「おはよう」と言ってはにかんだ。……付き合う前から感じてはいたが……彼女は悪魔のような小悪魔だ。
 正直その奔放さに悩まされる事もあるが、結局そんななまえも「悪くない」と思ってしまうのは惚れた弱みなのだろうか。そのくらいに安室は毒されていた。そしてその甘い毒に侵された体は、なまえがいる限り治る事はない。

 安室はなまえと同じように触れるだけのキスをしてから「おはようございます」と二度目の挨拶をした。


2016/01/03

・恋人同士
・夢主の言動に振り回される安室さん
・甘い休日の話

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