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シークレットバタフライ

※原作90巻『切り取られた文字』より


 事件が解決した後、コナン君と昴さんは何か思い出したような表情をしたと思ったら、そのまま事件現場から出て行ってしまった。
 慌てて昴さんの後を追えば、昴さんはスマホを取り出し首元の変声機をオフにして誰かに連絡を入れる。

「――すぐに来てくれ。確認したい事がある。……ああ、頼んだぞ」

 微かに聞こえた声からして電話の相手はジョディさんだろうか。
 通話が終わったのを見計らって昴さんに声をかける。

「……あ、あの、急に家を飛び出したりして、どうかしたんですか?」
「さっきのトリックを見て、例の事件の暗号が解けるかもしれないと思ってな」
「ああ……」

 そう言ってスマホをポケットに閉まった後、今度は煙草を取り出した。……そういえば昴さんの格好をしている時に煙草吸うのって初めて見るかも……。赤井さんの時でも、ここ最近はあまり見なかったからつい見惚れてしまう。

(っ!)

 煙草を口に咥え、伏し目がちにマッチで火を点けるその姿にドキッと心臓が大きく跳ねる。それがとてつもなく格好良くて。赤井さんの時は言わずもがなだけど、昴さんの姿でのそれが妙に似合って見えるのは、赤井さんの色気みたいなものが漂っているからなのだろうか。
 その姿に心臓を掴まれたせいで、少しだけ息が出来ない状態に陥る。

「……ハァ、」

 慌てて昴さんから視線を外し、落ち着かせるように小さく深呼吸をすれば「どうした?」と問いかけられる。

「い、いえ……何でもない、ですよ」

 昴さんをチラッと見て言うも、やはり昴さんが煙草を吸っているというギャップにやられてしまって未だに鼓動が治まらず、直視出来ない。ああ、どうしよう……顔が熱い。出来るならずっと見ていたいのにな。このままだとドキドキしすぎてどうにかなりそう。
 早くジョディさん来てくれないかな……と思っていると、昴さんは大きな紫煙を吐いた後、携帯灰皿に煙草を捨てて不意に私の名前を呼ぶ。熱が治まっていない顔で目を合わせるのは恥ずかしいけど、反射的に昴さんに視線を移す。

「どうかしましたか?」
「…………」
「……昴さん?」

 名前を呼んだのに特に何か言うわけでもなく、黙ったままじっと私を見つめる。しばらくの間見つめ合うような形になるも、耐えられなくなって視線を逸らそうとした時、ふと距離が縮まって昴さんの影に覆われる。そしておもむろに顎に手を添えられたかと思えば、そのまま口付けられた。

「!」

 体に纏った微かな煙草の匂いと、口から伝わる苦いけど甘いそれに、一瞬金縛りにあったかのように動けなくなった。

「……な、何っ……、いいいきなりどうしたんですか……!?」
「聞いてからの方が良かったか?」
「そういう事じゃなくてっ……!」

 スキンシップらしいスキンシップなんてたまに抱きしめられたりするくらいで、昴さんはそういう事は滅多にしないのにいきなり、しかも道端でキスだなんて……!
 わたわたしながら、ジョディさん早く!と昴さんから距離を取るようにして車が通らないか道路に身を乗り出せば、背後から昴さんが歩み寄って来て耳元で一言、小さく囁いた。

「したくなったから、しただけだ」
「っ!」

――それからジョディさんはすぐにやって来たが、私を見るなり真っ先に顔が赤い理由を聞いてきた。
 その問いに、今さっきされた事を思い出してさらに顔を赤くする私を、昴さんが口角を上げて楽しそうに見ていた事は知る由もない。


2016/02/24

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