生意気な瞳で僕を打ちぬいた
※バーボン視点 黒ずくめの組織――未だにその正式名称はわからない。潜入捜査を始めて数年が経っているが、ボスの正体すらも掴めずにいた。
しかし何もかもがわからないことだらけの中でただひとつだけわかることがあった。それは組織のメンバーであるアマレットが気になっている自分がいるということ。気になるといっても俗に言う恋の類いではない。むしろ嫌い、かもしれない。
それなのに気になるのはなぜか。その理由は自分でもわからない。あえて言うなら正反対の気持ちから湧く好奇心――とでも言うべきか。とにかく気になって仕方なかった。
「やっば!今日のターゲット超大物じゃん!殺りがいある〜!ねぇキャンティ、今日は私が殺ってもいい?」
「チッ、仕方ないね。今日だけは譲ってやるよ。ただし一発で仕留められなかった時はアタイが殺るからね」
「あいよ。こりゃ何が何でも一発で殺んなきゃだね〜!」
「燃えてるねぇ!……それよりもさ、なんでこの男がいるんだい?」
自身の車を運転するキャンティがミラー越しに、派手な蝶のタトゥーとともに鋭い視線を向けて僕を睨む。
なんでと言われてもそんなのこっちが聞きたいくらいだ。人を殺す事しか頭にない過激な女二人と任務を共にするなんて僕には何のメリットもない。何か重要な情報が手に入るなら話は別だが。
「そんなの僕に聞かれても知りませんよ。指示したのはボスだそうですから、ボスにでも聞いて下さい」
「チッ、ホントいちいちムカつく男だね」
「そう怒んないの、キャンティ。……私は結構好きよ?バーボンのこと」
今度は助手席にいたアマレットがキャンティを宥めながらミラー越しにチラリと僕を見る。その顔はどこか意味深な笑みで、そんなアマレットに少しだけ鼓動が速まった。この女、まさか……。
「それはどうも。僕はあなたのことは好きではありませんが」
「アハハッ、そういうところ!そうやってつれないところ、好きよ」
速まる鼓動を落ち着かせるようにして適当にあしらってそう言うが、アマレットは特に気にすることなく高笑いするだけだった。僕の本心を見抜いた上での発言かどうかは、悔しいが僕でも読み取れない。そもそもアマレットの言葉が本当かどうかも疑わしい。
これ以上相手をしていたら何が起きるかわからない。険しい顔をしてる自覚をしつつも、焦る気持ち落ち着かせるように目を閉じて短く息を吐く。そして再びミラー越しに彼女を見れば、崩しながら笑っていた表情がふと口元に弧を描くだけの笑みに変わる。それから僕の方を振り返ってきて――
「本当に好き。殺したくなっちゃうくらいに」
そう呟いて左手で銃を撃つ仕草を僕に向けてきた。
人を人とも思わない冷酷で無慈悲な奴を、人間としても女としても好きになる可能性なんてゼロに等しい。彼女が組織の人間である限り一生相容れないだろう。むしろ僕の正体に感づいているかのような言動に命の危機を感じているくらいだ。
なのになぜだろうか。挑発するようで、しかし組織の人間とは思えないほどに甘い眼差しを見せる彼女に不思議と目が離せずにいた。
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夢主はキャンティをリスペクトしてて、目元に同じように蝶のタトゥーを入れてるというどうでもいい裏設定があったり。
2016/06/21〜2016/09/06
2016/06/21
title:moss
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