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雨が降る雑踏の中、安室さんを見かけた。しかしいつもとは違う格好に、心なしか浮かない表情。どこか悲しそうで疲れ果てているようにも見える。おまけにこんな雨だというのに傘も差さずにいた。この前からポアロも休みがちだし何かあったのだろうか。
そんな彼がいつになく気がかりで、私はすぐに彼の元へと駆け寄った。

「安室さん……!」
「水稀さん……」
「傘も差さずにこんな所でどうしたんですか?風邪、引いちゃいますよ」

濡れないようにと傘を差していた腕を伸ばす。「すみません」という彼の瞳はどこか揺らめいていて、愁いを帯びていて。何を思っているのか、何が言いたいのか、読み取ろうと強く見つめてみるもそう簡単に答えなんて見つかるわけもなくて。
ただそんな安室さんを見ていたらなぜかもう会えないような気がした。もうこのままポアロにも戻って来ないかもしれない。そんな不安と恐怖がふと頭の中をよぎって、気が付けばもう片方の手は濡れたスーツの裾を掴んでいた。

「どうしたんですか?」

囁く声がひどく優しくて泣きそうになる。
いつか別れが来るのなら。せめて今だけは、その瞳に私だけを映す事を許して欲しい。

「……急にいなくなったりしないで下さいね?」

力なく呟いた願いは雨音とともに静かにかき消されていった。


某曲の一部分のフレーズをもとに書いたからよくわからない感じに…。執行人の広場のシーンをイメージ。降谷の存在は知らない夢主。
連載主の名前が出てきますが便宜上出しただけでまったく関係ないです。
2018/04/27 (Fri) 11:08
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