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執行官に部屋は与えられても、そこにプライベートな空間は存在しない。なぜならこの監視官デバイスさえあれば居場所もわかるし、部屋にだって許可がなくとも入れるから。

「おい、監視官。これは一体何のマネだ?」

ソファーに両手をついた私の真下で彼は顔をしかめながら言った。

「……いい加減、その呼び方やめて」

常守さんの事はちゃんと名前で呼ぶくせに私の事は一度も名前で呼んだ事はない。彼はそんな事毛ほども意識していないだろうが、私の胸の内には黒く渦巻いた感情がじわじわと広がっていく。
――常守さんばっか構ってないで私の事も見てよ。早く、私のモノになってよ。

「本当に妬けるわね」

二人がそんな関係でない事くらい分かってる。けれど意気地なしな私は何の行動も起こさず、彼と親しげに話す彼女に嫉妬し、彼女にちょっかいを出す彼に嫉妬するだけ。黒くて、汚くて、醜い歪んだ感情。

困惑を口にする彼の口を塞ぐように、強引に自分のそれを押し当てる。
こうする事でしか私は彼の気を引く術を知らない。なんて惨めで憐れなんだ。

2017/01/23 (Mon) 13:01
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