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「松田さんかー。松っちゃん、じゃあありきたりだしなぁ」
「こうなったらとびっきりいいあだ名付けてあげてよ」
「さりげなく変なあだ名付けさせようとすんな」

きっと水稀なら(別の意味で)いいあだ名を付けてくれる、萩原は期待した。
萩原より酷いあだ名などそうありはしない、松田は余裕をかました。

「ぺーさん!」
「は?」
「陣平だからぺーさん。ぺーちゃんでも可愛いですね!どうです!?結構良くないですか!見た目とのギャップも相まってすごくいいと思うんですが!」

何の曇りもない、松田を真っ直ぐ見つめる瞳は好奇で溢れている。そんな水稀を見て松田はマジか、と頭を抱えた。冗談やからかいで言っていないことがわかるから、自分がおかしいのかと錯覚すらしてしまう。が、変なあだ名であることは事実である。絶対に。
しかしそんなことを思いながらも心の奥底では少なからず嬉しい、などと思ったりしていた。女性とのコミュニケーション能力が高い萩原とはまるで正反対の松田だ。女性から声を掛けられてもぶっきらぼうでガラの悪い返ししかできない。そんな松田のことを水稀は特に気にもせず普通に話しかける。それが何だか新鮮で心地よくて。口では何だかんだ言ってもこうして萩原以外の人間――異性とくだらない話ができることは悪くなかった。

「水稀ちゃんマジ最高」
「いいですよね!?ぺーさん」
「うん、最高。ね、ぺーちゃん」
「誰がぺーちゃんだ。ホントお前らが意気投合すると碌なことになんねーわ」

胸ポケットから煙草を取り出し、火をつけ大きく吸って肺に充満させる。天井に向かって長く息を吐き出せば、その口元は微かに緩んでいた。
変なあだ名を付けられ不服なのは多少なりとも事実であるが、ほんの少し、米粒程度にはまんざらでもない松田がいたことはトップシークレットだ。

2020/06/08 (Mon) 23:15
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