ss
雛河くんとは同期だということもあって、執行官の中では一番付き合いが長かった。
当時は彼のおどおどした振る舞いに打ち解けるには時間が掛かりそうだと少し不安に思っていたけれど、それも今となっては懐かしい。
そう思えばあの頃に比べたらそれなりには仲良くなれたかな、なんて思っていたはずだったんだけどーー

「オイ、何ボケっと突っ立ってんだよ。後ろつかえてんだけど」
「え?あ、ごめん」
「ったく……。で?そんなに雛河のヤローのことずっと見つめて何考えてたんだよ」
「えぇ!?いや、別に、何も」
「ふーん?」

とは言ったけど。あからさまにニヤニヤとした表情の入江さんを見る限り信じてはいないんだろう。そして同時に何か嫌な予感がする。
そう思ったのも束の間、入江さんは前を歩いていた雛河くんを呼んだ。
そして雛河くんが返事をするより先に「おっと〜」とわざとらしい声とともに背中に衝撃が走った。
一瞬何が起きたのかわからず、しかし驚きの声を上げた時にはすでに間に合わず。体は勢いよく彼の胸をめがけて傾いていた。

「!だ、大丈夫?」
「う、うん、なんとか……それより雛河くんの方こそ平気だった?」
「僕は大丈夫……それよりも怪我しなくて本当に良かった」

頬を染め、はにかみながら前髪の隙間から瞳を覗かせる。
そんな彼を見たら肩に触れてる手だとか吐息が掛かりそうなほどに密着した体温だとか、今まで知らなかったものに対して急に意識をし始めてしまい、それがなんだかとてつもなく恥ずかしくて彼の視線から逃げるように俯いた。
しかしそんな気持ちとは裏腹に、もう少しこのままで、とか離れたくないな、なんて。
そんな風に思ってしまった自分に気付いた時にはもう、雛河くんに対する感情が何なのかは明白だった。


「オイ、アイツらの周りだけやけに甘ったるい空気が流れてるぞ。お前何やったんだ?」
「いやー、ちょっとからかっただけのつもりだったんすけどね……?なんか思わぬ方向に行っちゃったっつーか……なんか俺キューピッドになっちゃったみてぇっす」


お題『密着事故』
チンピラコンビに絡まれてる雛河くん不憫だけど可愛さ引き立って良きです。笑
2019/11/02 (Sat) 01:46
- ナノ -