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※もはやssとは呼べない長さ

ハルちゃんのことは全てではないにしても、少なからず理解はしていたつもりだった。けれど「水」のこととなると、そんな思いもあっという間に流されてしまう。
夏はハルちゃんがとびきり輝く季節だから好きだけど、本音を言うと少しだけキライだ。
水という無機質な存在に嫉妬するだなんてあまりにも情けない。しかし同じくらいハルちゃんと夏を謳歌したい気持ちもあるから困ったものだ。

「真夏のプールの後は睡魔の波がどっと押し寄せてくるね……。午後の授業、本当に危なかった」
「オレはまだ泳ぎ足りないくらいだ」
「相変わらず水と仲良しだねぇ、ハルちゃんは」

拗ねてることに気付いて欲しくてわざとらしく言ってみるも、当の本人はいつもと変わらない様子だった。……今更か。
もどかしい思いを隠すように小さく息を吐く。ハルちゃんは夕飯の準備をしているらしく、鯖の良い匂いがキッチンから漂ってくる。

「夕飯、鯖の味噌煮だけどいいか?」
「え、ごちそうになってもいいの?」
「そのつもりだったけど。無理なら別に――」
「ぜ、全然大丈夫!ハルちゃんの手料理食べられるなら喜んで頂きます!」
「そうか」

ハルちゃんの一言で沈んでいた気持ちが一気に吹き飛んでしまうから本当に私は単純だ。それに普段、感情の起伏が少ないハルちゃんが、こうしてふと口角を上げるだけで私の胸はぎゅっと掴まれてしまう。

「今出来上がったけど食べる前に少しだけ寝たい」
「えー、せっかく作ったのに……温かいうちに食べようよ」
「食べる時に温め直せばいい。眠い」
「まあ私も授業中耐えてたから今すっごく眠いけど――っ!?」

目を閉じたらすぐに寝られるくらい睡魔に襲われていたけれど、ハルちゃんが突然腿に頭を乗せてきたことによって眠気は一瞬にして消え去った。

「ちょ、ちょっとハルちゃん!?」
「何?」
「何ってそのっ、」
「お前も疲れてるんだろ。だったら一緒に寝ればいい」

下から上目遣いされるこの状況に緊張で耐えられず、反射的にハルちゃんから顔を逸らしてしまった。ああ、もう、せっかく汗が引いてきたと思ったのに!

「いや、まあそうだけど……!わ、私のことは気にせず寝ていいよ。どうせ寝れないから……」
「目、充血してるけど」
「元はと言えばハルちゃんのせいだからね!ハルちゃんがいきなりこんなこと、するから……」
「?なんて言ったんだ?」
「何でもないっ!ほら、寝た寝た!」

顔を見られるのが恥ずかしくて無理やり視界を遮るように瞼の上に手を被せる。何やら抗議の声が聞こえるけど、今の私にそんな余裕はない。前から思ってたけどハルちゃんって天然タラシなところある気がする!

「……なあ、」
「なに?」
「今年の夏はお前と一緒に過ごしたい」
「っ、急にどうしたの?」
「お前がオレの中で特別な存在になってから初めての夏だから」

手を取り、真っ直ぐに私を見るハルちゃんの瞳は太陽に反射した水面のようにきらきらと揺らめいている。いつ見ても吸い込まれそうなほどに綺麗な瞳だ。
何食わぬ顔で爆弾をぶっこんで来るハルちゃんに振り回されている自覚はある。でももうそんなことはどうでもいい。
やっぱり私はフリーにしか目がないハルちゃんが好きで、太陽の下で伸び伸びと泳ぐハルちゃんが好きで。そんな夏が大好きで。

「そうだね。ハルちゃんがいれば今年はとびきり楽しい夏になるよ」

そう、今年の夏は今まで以上に、きっと忘れられない夏になる――。
2018/07/23 (Mon) 01:49
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