「おー、仁王じゃーん!元気にしてたー?」

「佐上こそー、変わりないようで安心したぜよ」

「そっちこそ、相変わらず謎の方言喋ってんなあ」

「一応最近は高知弁準拠じゃ」

「そこはかとなく広島弁を匂わすのがいいな」

「そうじゃろ?そろそろ佐上とユニットの誘いが来てもおかしくないんだがのう…」

「おお、良いなそれ」

「ユニット名先に考えとこうぜ」

「えー何にする?」

「方言がやっぱり一番のセールスポイントとして…」

「………」

「………」



あの2人何固まってんすか。
不思議そうにそう呟いた切原くんの声に思わず苦笑した。立海と練習試合を設けるといつもこうだ。あの2人は馬が合うのか知らないがよくああ言った訳が分からない会話をしている。
そしてお互いが考え出すと中々喋らない質のため、ああやって悩み出すと途端にマネキンのように完全に動きを止めて黙り込むのだ。
はいはい、ええから放っておいて試合するでー。
一応部長という立場だからあっちを気にしつつも無理矢理場を進行させたら、鼻をすんすん鳴かせた千歳が近付いてきた。
ああ、そう言えば厄介なのが他にもいた。



「なんばい佐上の奴…西日本ズち言っとった癖に…!」

「はいはい、文句あるんなら本人に言いや」

「……うっ」



ぐすぐすと190を越す男が落ち込む様というのも中々怖い。しっしと追い払いつつ幸村くん達の方に向かえば、切原くんが相変わらず動かない2人を口を半開きにしてぽかんと見ていた。
混ざりたいんやろなあ、と何となく心中を察しつつ今日はお世話になりますと部長副部長の2人に挨拶していると、そこでやっと変化があった。
あ!と突然響いたそれはもう綺麗に重なった仁王くんと佐上の声に切原くんと千歳と、あとこっそり真田くんも肩を揺らして驚いていた。
今驚いたでしょ、と幸村くんにしっかり指摘され驚いてなどいない!と赤面しつつ返すその必死な表情に思わず笑った。
さめざめとコートの端の方でしゃがみ込んで泣いていた千歳は金ちゃんに慰められながらちらちらと佐上達の方を気にしているし、切原くんも少しだけ2人に近付いていた。
何やこれ、おもろい状況やなあ。ほんと、立海と練習試合すると必ず何かしら起こるから退屈せんでええ。



「…仁王、いっせいのーでで言うか」

「プリッ」

「よし、いっせーのー」

「で!」


「瀬戸内ズ!」


「方言微塵も関係ねーじゃねえか!」



切原くんのナイスなつっこみに思わず手を叩いて笑ってしまった。本当に、方言が微塵も関係ないし高知は瀬戸内海に接してないというのに。あと佐上は○○ズと言うネーミングがやけにお気に入りらしい。ミニハムズとかなんか懐かしいもん思い出すわ。
アホやなあ、と思わず呟いた俺の言葉に幸村くんが同調するように笑った。お互い変な部員を持って大変やなあ。
笑いながら視線を横に移し縮こまっている男を見れば、何がどう悔しかったのかは知らないが体操座りの格好で頭を埋めさらにわんわんと泣いていた。隣の金ちゃんがどうすればええか分からずに困っとるやないか。
ほんま、楽しいんはええがそろそろ本題に入らな。



「はいはい、そこの瀬戸内ズ。もう話し終わったか?練習試合始めるで!」

「仁王…!俺達は引き裂かれる運命なんだな…!」

「佐上…!またきっと会える、俺はそう信じとるぜよ…!」

「きゅん!」

「ああもうやかましわお前ら。ほら、佐上は千歳の機嫌取りに行き。今日お前らダブルスやで」

「あれ、そうだっけ?」



やべえやべえ、と後頭部を掻いている佐上の背を、キノコが生えそうなくらい湿った雰囲気を醸し出している千歳と釣られて泣きそうになっている金ちゃんの方へと押しやる。
面倒くさい奴等やなあ、と思って立海の方も見てみると、切原くんが仁王くんに向かって佐上さんと何の話してたんすか?佐上さんと仁王先輩仲良いんすか?と質問攻めをしていた。
まあ、面倒くささは同じくらいか。
部長ってのは大変やなあ、と何となく目があった幸村くんと思わず苦笑しあっていたら、ついに真田くんがお決まりの台詞を叫びだしたので急いで各々の部員の尻を叩いて回ることにした。
とりあえず千歳ははよ泣き止め。





|
×