久しぶりに母校に遊びに来たら、相変わらずのサッカー部の練習風景に出会した。
俺の頃と変わらない、いやそれ以上のサッカー部の人数に思わず苦笑が溢れる。毎年毎年よく増えるもんだ。流石常勝帝国学園か。

パス連をしている一般部員の横を抜け、専用ピッチを目指す。特設スタジアムの中に足を踏み入れれば、飛び交う指示の声が聞こえてきた。




「へえ、繁盛してんじゃねえか」

「……え、あれ、七緒さん…?」

「おお佐久間。ナイスタイミング…ってどうかしたのかよ?」

「ちょっと右足を捻りまして…」

「ふーん…」




確かに体重が左側に傾いている。まあ捻挫なんてよくあることだ。けど一回捻ったら癖がついてまた捻ってと大変なんだよな。
過去の自分の体験を思い出し少し顔をしかめると佐久間が不思議そうな顔をして小首をかしげた。それに気にするなと返してから俺は佐久間に背中を向けてしゃがみ込み、乗るように言った。
とにかく足を捻っている限りは、あまり歩かせない方が良い。




「乗れ、医務室まで連れてく」

「い、いえ…!そんな、俺大丈夫ですから…!」

「捻挫なめんなよ。いいから乗れ」

「…けど」

「早くしねえと担ぐぞ」

「すいませんお願いします」




俺が帝国にいた時分のことを思い出したのか、佐久間は担ぐというワードを出したら大人しく言うことを聞いてきた。
昔練習を終えたあとに遊びとして佐久間や辺見をよく担ぎ上げて振り回していたことがあったから、それを思い出したんだろう。
まあ大人しくなったのはいいことだ。さっさと運ぼう。




「…で、何で捻ったんだ?」

「足首削られて、倒れた時に変な風に捻ったみたいです」

「ふーん…ボール狙ったのかお前の足首狙ったのか、聞いてみてえな」

「……仕方ないですよ、そう言うスポーツですし」

「まあ、な。うし、んじゃそこの椅子に座っとけ」




医務室に入り、すぐ近くの椅子に佐久間を座らせて俺は勝手に救急箱を漁った。湿布には在部中かなりお世話になったから、場所はしっかり憶えている。
とりあえず湿布が入った袋を手に、佐久間にスパイクと靴下を脱ぐように指示する。どこをどう捻ったか、素人目だけど一応確認しておこう。
何故だか医務室の先生が居ないから、まあ応急処置だ。




「脱いだな。じゃあゆっくり動かすから、痛かったら言え」

「はい」




佐久間の足下に座り込み、右足首を掴んでゆっくりと左右上下に動かしてみた。声こそあげないが、佐久間の反応を見る限り外側を捻っているらしい。
ほうほう、と思いながらもう一度外側に足首を曲げる。あの、と戸惑った声が聞こえた。




「七緒さん…あの、痛いです…」

「おー」

「ちょ、やめ…っい、たい…!」

「うん、なんつーか、いいなこれ」

「え…?」




俺がニヤニヤしながら佐久間の痛がる顔を見ていることに相当驚いたらしく、佐久間はやめてくださいと俺の手から逃れようと足をばたつかせた。
まさか暴れるとは思っていなかったから避ける体勢も取っていなかったため、佐久間の足がもろに俺の頬を蹴った。
ちょっと、楽しくなってきたな。口角をくっと上げたあと、俺は佐久間の首を片手で掴んだ。




「ちょっと、静かにしてろよ。ああ、悲鳴はあげて」

「七緒さん、何考えてるんですか…!」

「お前の痛がる顔かわいい」

「なにを…ッひ!」

「あと怖がる顔も。…首は絞めねえから安心しろな?」




喉仏をさすりながらそう言えば、佐久間は怯える目をしながら俺を見てきた。本当に可愛いなあ、眼帯も取ってしまおうか。
腹からこみ上げてくる笑いを抑えながら、次はどこをつつくかと悩んでいたら急に医務室の扉が大きな音をたてて開かれた。
あ?と振り返れば少し汗を滲ませた鬼道の姿が。ああ、ここまでか。残念。




「あなたはまた…ッ!いい加減自分の趣味に他人を巻き込むのはやめてください!」

「ごめーん。…ここからだったのによ」

「……ッ」

「はいはい鬼道睨むな。俺は大人しく帰ります。じゃあな佐久間、お大事に」

「……」




惜しかったな、なんて思いつつ、俺はさっさと医務室から退散した。
今度は監督に許可もらおう、そうしよう。





うましかさまリクエストありがとうございました!
110224


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