「はいはーい、デスコに質問でーす」

「……」

「おい、おーい、デスコー?」

「デスコ等と言う輩はここには居ないが?」

「てめえだよ陰険」




もふもふ、と言いながら奴は私の首回りのファーを触った。人の事を陰険だの根暗だのと言いながら、何故かこいつは私から離れない。
正直何を考えているのか全く分からない、こう言うのらりくらりと生きているようなタイプの人間は好きではないのだが、こいつは不思議と隣に居ても気には障らなかった。
時々物凄く目障りに思うことはあったが。




「デスコもふもふ……ぶっ」

「おい、顔を突っ込むな」

「なー、そろそろ俺にも素顔を見せて良い頃じゃねえのかあ?」

「思い上がるな。私にとってお前はそれほどの価値はない」

「うわショック…超ショック…デスコあったけー…」

「相変わらず私の話を一切聞かないな、離れろ」




今私はコートを着ずスーツ姿で居る。それに後ろから抱き着き、こいつは私の首元のファーに顔を埋めている。
男に抱き着いて何が楽しいのか、ただ単にスキンシップが好きなのかこいつはやたらと私に抱き着こうとする。
今日のような寒い日にはそのままにしておくが、たまにとても鬱陶しくもある。




「デスコあんなあ、ちょっと頼みがあってなあ」

「断る」

「俺もデスコとお揃いのコート欲しいわけでして」

「断る」

「ペアルックとかそそるべ?」

「心の底から断る」




同じコートなど、何故私がこいつにプレゼントせねばならん。相も変わらず人の首元で頭を押し付けている奴の腹に肘で突きを食らわせ、私は手にしていた本を棚に戻した。
すぐ後ろでは痛みに耐える呻き声が聞こえる。私に容赦や遠慮等と言う考えはないから、相当綺麗に入ったんだろう。
ざまあみろとはこの事か。




「デスコール…ッてめえ…!」

「ふむ、あとは…そうだな、次は精神分析にでも手を出すか」

「お前なんかフロイトさんに呪われてしまえ変態仮面…」

「流石のフロイトも呪詛はできないだろう」

「変態仮面は否定しないんだな」

「変態に変態と言われてもな」




片腹痛い。そう告げれば後ろから大袈裟なため息が聞こえた。
ため息を吐きたいのはこっちの方だ。何故私はこんな奴を養っているのか。

棚から精神分析関係の本を数冊抜き取り、私は気に入りの椅子に腰掛けた。
とりあえずは入門からか、と比較的初歩の本を選び、他を机に置いてから背を椅子に預けると、すかさず後ろから首回りにまた奴が抱き着いてきた。




「なあなあデスコー」

「離せ鬱陶しい。私は読書をするんだ」

「なあなあなあ」

「黙れ。追い出すぞ」

「あ、それは嫌だ」

「……」

「なあ素顔見せなくて良いからさ、せめてちゅーするときは外そうぜ?」

「まずキスをする必要がない」

「えええ…」




俺はいつでもしたいのに。
ぼそりとそう首元で呟いて奴は口を閉ざした。言葉で語らなくなった代わりに、奴の手の動きが活発化した。
本を読む私の手に重なったかと思えば、ゆっくりと頭の方へ上昇し、最終的に私の口を両手で塞いだ。




「……」

「わあ不愉快そう」

「……」

「分かるなら離せって?じゃあキスさせて」

「……お前は」

「もうさ、認めようぜデスコール。俺のこと好きだろ?」

「笑えない冗談だな」

「じゃあ何で俺のこと養ってんだよ、へんたーい」




変態はお前だと、そう言い返してやりたかったが言葉に詰まった。
本当に自分でもこれに関しては不思議だった。何故私はこんな何の足しにもならない男を手放さないのか。未だに自答ができない。
押し黙った私を見て、奴は小さくほくそ笑むと首回りから退き私の前に回り込んできた。そして私の右手を持ち上げたかと思うとそれで自分の目元を隠し、また話し始めた。




「ほら、これなら俺はデスコールの素顔が見えない。なあ、仮面外してちゅーしようぜ」

「…………」

「……よし、俺の解釈を言おう」

「解釈?」

「デスコは基本的に一匹狼タイプだけど、実は寂しがり屋なんだ。そこに同じく寂しがり屋の俺が現れた。で、二人で一緒に居ることで寂しさを緩和してる」

「……お粗末な解釈だな。それに私は寂しがり屋ではない」

「嘘つけ。寝てる俺の手無言で何分も握ってるのはどこの誰だよ」

「…ッそれは、と言うかお前起きていたのか」




私の質問ににんまりと笑って返した奴に、思わず舌打ちをした。誤算だった。まさか起きていたなんて。
私の手が被さっているから奴から私が見えているはずはないのに、何だか居たたまれなくなり顔を逸らした。
何なんだ、こいつは。いつもいつも私を翻弄させ楽しむ。




「な、そんなわけでちゅーしようぜ」

「意味が分からない」

「もー…意地はんなよなあ…」

「……そうだな、お前がここに居る理由が分かったら、この仮面を外してしてやろう」

「まじで!って、だから寂しいのをだな!」

「私が納得する理由を持ってこい。そして退け」

「なんだよー…もー…じゃあとりあえずさあ」




俺の名前呼んでよ、と言う小さな声に、私は思わず口角を上げた。









つららさまリクエストありがとうございました!
110201

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