「おい、七緒」

「おお」

「てるてる坊主作るぞ!」

「おお、………は?」




うちのキャプテンの毎度の思い付きにはほとほと呆れる。3日前は急に「ドッジやるぞ!」と意気揚々と俺達を連れ出しドッジと言う名目を借りたバーンストレス発散大会となった。
そして今回は別に明日遠足やら運動会があるわけでもないのにいきなりてるてる坊主作るぞときた。
あいにくと今この場には俺とバーンしか居ない。つまりはさっきの発言は俺に言ったとしか考えられない。




「てるてる坊主…って」

「ティッシュと輪ゴムとペンがあればできんだろ!ほら!」

「いやほらって…」

「ノルマは一人5つだ!」




ちゃっかりノルマまであるらしい。だから作業する前に何故てるてる坊主を作らないとならないのかと言う理由を教えていただきたい。
目の前に広げられた箱ティッシュと輪ゴムとペンを見下ろしながら俺は大きなため息を吐いた。隣ではバーンが意気揚々とティッシュを丸めている。
まあ、キャプテンがやれって言うんなら仕方ないんだろうけども。下っぱは辛いよと嘆きながら俺は箱からティッシュを引き抜いた。




「良いか、ちゃんと普通の顔描けよ」

「…俺が普通じゃない顔描きそうって?」

「吐血した顔とか描いてたろ、昔」

「………よくご存知で」

「だから、ちゃんと笑顔とかそんなんにしろよな!」

「はーい」




バーンに促されるまま俺は大人しくティッシュを丸め、それをまた新しいティッシュで覆い輪ゴムで首を締めた。
そしていざペンを手に取り、隣から嫌に視線を感じながらも俺はよくあるスマイリーみたいな感じの顔を描いた。
多少歪んで中々残念な顔になったけど、まあ大丈夫だろう。




「こんな感じ?」

「おう!」

「…にしてもバーンキャプテンよ、何でてるてる坊主なんて作るんだよ」

「はあ?てるてる坊主作るのは雨降らさないようにするために決まってんだろ。お前俺より年食ってるくせにアホだな」

「………ごめん、どこから突っ込めば良い?」

「あ?」




俺が聞きたいのはてるてる坊主が雨降り防止の願掛けであると言う前提でなんで明日雨を降らせたくないのか、だったんだけど。
それに年上って言ったっててるてる坊主作用を知らない俺より年上の人だって居るかもしれないんだから、てるてる坊主作用知らないのに自分より年上=アホはないと思う。
この子はほんと思考が短絡的なんだからとちょっと母親的な心配をしつつも、やっぱり俺もまだまだ子供だから仕返しを試みてみた。




「バーン、てるてる坊主の歌があるのは知ってるよな?」

「バカにすんじゃねぇよ、あたりめーだろ」

「じゃあその歌が3番まであるのは…知ってたか?」

「……は?1番で終わりじゃねーのかよ、あれ」

「実は3番まであるんだよ」

「へー」




知らないことを素直に受け入れる点では良い子なのに。何て関係ないことを思いつつ俺はまた新しいてるてる坊主作成に手を動かした。
バーンは大して興味がないようで、こっちを見もせずせっせとてるてる坊主作りに勤しんでいる。
まあ、話の本題はこれからなんだ。精々今は余裕ぶってると良い。俺は知らず知らずの内に口角を持ち上げて話していた。




「まあ2番までは普通に明日晴れにしてくれたら酒やるよとかそんな感じなんだよ」

「てるてる坊主が酒飲むわけねぇだろ」

「晴れにしてくれるならそれ位してやるって例えだよ。で、問題は3番」

「……」

「3番はてるてる坊主を吊るしても曇りになった時は…って歌詞なんだよ。…効力を発しなかったてるてる坊主は、どうなると思う?」

「…落ちるとか、逆さにするとか…なんかそんな感じだろ」




俺の話し方から不穏な空気を感じ取ったのか、バーンは少し不貞腐れたと言うか会話から逃げるように適当に答えた。
逆さにしたら雨降るだろと思いながら俺は首を左右に振り、体ごとバーンの方へと向き直った。そして片手には完成したてるてる坊主を。
バーンがごくりと固唾を飲んだ。




「役に立たなかったてるてる坊主はな………首を、切られるんだよ」




本当はハサミがあれば実演して見せたんだけど、そう都合よく近くにハサミなんてなかったから、自分の指をハサミに模して俺はてるてる坊主の首を切るふりをした。
瞬間、ぞわあっと恐怖が沸き上がったのかバーンは手にしていたてるてる坊主を机に落とし、目を見開いて俺を見たまま動きを止めた。
予想通り、と言うか予想以上の反応に俺は思わずぷっと噴き出してしまい、それを見てバーンもやっと硬直から解け顔を真っ赤にして俺に吠えてきた。




「な…ッ何言いやがんだてめえ!今っ、今からてるてる坊主大量生産する奴にする話じゃねぇだろ!」

「いやあ、ここまで怖がってもらえたら満足の至りだ!」

「怖がってねぇよ!あああもうお前には任せねぇ!ヒートに手伝わせる!じゃあな!」

「ああ。夜寝るの怖くなったら俺の隣なら空いてるぜー」

「ふっざけんな!」




猫が威嚇するように去っていったバーンは、結局その夜俺のベッドに潜り込んできた。
そして次の日は雲1つない快晴の下で、バーン主催プロミネンス流しそうめん大会が開催された。秘密裏に計画していたらしく、それで理由が言えなかったらしい。
うちのキャプテンは、中々立派なキャプテンです。











翔さまリクエストありがとうございました!
100926


|
×