∈でーえむえむそうこ∋

0120 剪゚の心審神者知らず






「え?」

「ん…?」

「っ主!」

「うわっ……は?」

「主!喚ばれたから来たぞ!」

「……こいつは…」

「鶴丸…?」

「ああ!鶴丸国永だ!」

「……なんで…」

「鶴丸国永は既に鍛刀されていた…と思うんだが」

「そうだよ。大千鳥ももう会っただろ。…だから、なんで」

「ん?」

「主君、何か声がしましたがだいじょう…ぶ?」

「秋田。…変だ。重複鍛刀したはずの鶴丸が顕現して現れた」

「え?……そんなことって」

「本来ならば刀のまま人の姿には顕現しない…のだったか」

「うん。…それになんか様子が…」

「へへへー」

「……鶴丸ってこんなに甘えただったっけ?」

「い、いいえ…口では色々と言えども行動は慎ましやかな方だと僕は思ってます。少なからず今みたいに主君に面と向かって抱きつくことはしないのでは…」

「だよね。…鶴丸国永」

「うん?どうしたんだ、主」

「お前は誰だ?」

「は?誰って…今君も呼んだじゃないか、鶴丸国永って」

「………」

「僕、鶴丸さん呼んできます」

「いや、もういるよ」

「え?…あっ」

「いる?…どこに…」

「…よ、っと。…相も変わらずだな主。隠れ鬼じゃ無双じゃないのか?」

「…どう思う」

「分からん。…けど、正直なところ不愉快な上不気味だ。早くどうにかしたい」

「だろうね。…とりあえず鍛冶場を出よう。付き合ってくれてありがとう大千鳥」

「ああ。…誰か呼ぶか?」

「いや、大丈夫。大千鳥は休んでいてくれ。…それで、お前はお前でちょっと移動して。さすがに真ん前に抱きつかれちゃ歩きづらい」

「………」

「鶴丸国永?」

「…俺だ…」

「そうだね」

「………」

「…俺と同一存在なのは分かるが君にそうベタベタしてるのを見せ付けられるとほんっとうに不愉快だ」

「はは、大変だ」

「笑い事じゃないんだぞ…」

「……」

「…なんだよ」

「別に」

「……」

「け、険悪です…!」

「まあ、そうなるだろうけど。…うーん…」





「離れろ」

「嫌だ」

「………」

「巴。あからさまに睨むな」

「だが」

「だがじゃない」

「何なんだこいつは」

「それが分からないから困ってる。…イレギュラー…と言うほどでもないのかな…うーん」

「……主」

「ん?」

「そんなに俺がここに居てはいけないのか?俺は望まれていない?」

「え…っと」

「おい、情に訴え掛けるな。…主が自ら顕現させたのならともかく、お前は勝手に顕現してきた。その時点で望まれていない事は確かだ」

「…自分相手に、随分と酷いことを言うんだな」

「自分相手だからだ」

「……」

「…一度顕現し人の形を取り会話をしてしまった。刀解するのに情が混ざってしまう。すまんな、主。キミが言ってくれさえすれば俺が」

「鶴丸」

「……」

「背負おうとするな。…これは俺とそこの鶴丸国永の問題だ」

「…君のそういう所、好きだけど嫌いだぜ」

「そう。…巴、一応こんのすけに連絡を。問題と言うほどじゃないけど異常は異常だし報告上げとかないと」

「…それは構わん。だが主、不必要にそれにベタベタさせるな」

「あのな…」

「新年早々嫉妬させないでくれ」

「喧しい。…お前のそれは嫉妬なんて大層なものじゃなく駄々だ。そっちこそ新年早々俺を困らせるな」

「……ふん」

「……拗ねた。まったく」

「…それでも君は、俺を振り払わないんだな」

「え?」

「俺が全ての元凶だ。俺を引き離せば、無用な諍いは起きない。なのに」

「意味のない顕現ではないだろ」

「……」

「何か理由があるんだろうと思ってる。それに、一度自分の目の前に顕現した刀を無碍には扱えない」

「君は…」

「主、甘すぎるんじゃないか?」

「そうかもね。…けど。…けど、鶴丸なんだもんなあ…」

「…っ」

「……ごめん。正直俺もそこまで感情の整理ができていない。この問題は時間をかけて」

「…おい、来い」

「……」

「鶴丸?」

「これは俺が刀解する。許可をくれ、主」

「は?なにを…許可は出せない。刀解は俺にしかできない」

「なら、頼む。一刻も早く刀解してくれ。俺が耐えられない」

「…自室に戻れ鶴丸。無理してここに居る必要はない」

「だけど」

「鶴丸」

「……っここに、いる」

「なら口を出すな。いいな?」

「ああ…」

「……それで、鶴丸国永」

「なんだ」

「顕現するにあたって何か心当たりはあるか?何かこう…強い思い、みたいな」

「……強いて言うなら、君だ」

「俺?」

「君に会いたかった」

「それは…審神者に会いたい、という?」

「審神者ではなく恐らく君だ。虎落笛千。…君に…君に会って、伝えなくてはと…思って」

「伝える。なんだろう」

「……あー…その、そこの、本家の鶴丸国永」

「なんだ」

「少しの間で良い。俺と主を二人にしてくれ」

「嫌だが?」

「鶴丸」

「…得体の知れない奴なんだぞ」

「大丈夫。腕力じゃお前は俺に勝てない」

「そ…れもそうだが!…そうだけど、そう言われると…なんか」

「終わったら呼ぶから」

「何かあれば叫べよ」

「はいはい」

「………」

「…も、物凄く睨んで出て行ったな…」

「ははは…それで、なに?」

「……引かないでくれよ?」

「…?」





「……なんなんだよ…新年早々…」

「…鶴丸」

「終わったか!?…って」

「うん、終わった」

「それは…」

「刀に戻ったよ。万事解決」

「ええ…?なん、だったんだ…?」

「……端的に言うと、愛情不足?」

「は?…うおっ」

「…太刀以上はなあ…大人だからなあ…」

「な、なん、何だ主!?どうした?なにかされたのか!?」

「…鶴丸」

「なんだ…?」

「週一で面談時間作る…?」

「なんだって…?」

「いや…あの…俺意識しないと、お前達を構うってできなくて…」

「…一体何を言われたんだ…?」

「……それは秘密だけど」

「…お情けで構われるのって結構きついぜ?」

「……」

「なんだ?あの俺は、甘えたくて君の前に顕現したとかでも言ったのかい?」

「……流石だな…」

「え」

「え?」

「……ほ、ほんとか…?」

「うん。…素直になれないお前の分を補填するために、顕現してしまったのだろうって」

「……ぁ…えっ…」

「だから、普段相当我慢してる…と言うか自制してるんだろうなと思って、どうにか合理的にお前を構えればと…」

「……」

「…うん…そう恥ずかしがるだろうから黙っていてくれって言われたんだ」


「…………」

「そんな頭抱えてしゃがみ込まなくても」

「………やばい」

「やばいか」

「……埋めてくれえ…」

「どこに。…とにかく、一度立って。…まあまずは昼食にしよう。…あ、巴にも報告しとかないとだな」

「……」

「…ここ最近忙しくて本丸にもあまり居なかったしな…寂しいと思ってくれてる奴もいる…だろ…うから…?」

「あの…主…」

「なに?」

「……確かに色々と、君にして貰いたいこととか、あるんだが」

「うん」

「とりあえず、少し散歩にでも、いかないか…?」

「いいよ。…よし、じゃあ山伏が教えてくれた景色の良い丘に行こう」

「うお…っ!」

「それから少し買い食いでもしようか。光忠に怒られない程度に」

「…っああ!」




新年鍛刀1発目にして鶴丸さんが挨拶に来たので。
このあと巴がどちゃくそ拗ねました。情緒五歳児。





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