∈でーえむえむそうこ∋

0201 剩bと鶴と江と







「ふあ、ああぁ…」

「…大きな欠伸だ。どうした、珍しいな」

「んー…なんか、暖かくなるとね。眠くなる」

「…春、にはまだ遠いが」

「そのはずだけど。…ふー…さてと」

「……」

「…ん?誰か来てるな」

「……?」

「…失礼!豊前江だ!主はいるか!」

「いる。どうぞ」

「失礼する!主、少しだけ俺を匿ってくれ!」

「匿う?何から」

「兄弟達だ!…えーと、そこの押し入れ借りるぞ!」

「え、あっそこは」

「のわ!なんだ!?」

「ちょ、満員だぞ豊前!別の場所を選べ!」

「つ、鶴丸!?…ああでもすぐ来るだろうしな…!」

「ごちゃごちゃと喧しい。俺が襖を閉める。さっさと入れ」

「えっうおお!」

「いや無理だろ!」

「黙れ。……ふん」

「巴…お前な…」

「何だ?」

「いや別に…」

「すいません!主、りいだあを見てませんか!」

「篭手切…見てないけど」

「えっ…そうですか…じゃあどこに…」

「こっちに来たことは確かだよ。…主の部屋以外に隠れる場所はないと思うけど」

「…主…本当に見てない…?」

「見てないし知らない。…何でそんな躍起になって追いかけてんの?」

「膝枕争奪戦なんです…!」

「…ん?…んー…そっか!」

「その顔は超どうでも良いと思ったね。でも僕たちにとっては死活問題なんだよ」

「いやうん、まあ…刀派間の諍いには基本的に関与しないつもりではいるけど、豊前が逃走を図ったという事実はちゃんと受けとめてあげてよ」

「…そう、ですね…それもそうでした」

「兎にも角にもまずは豊前を見つけないと。…主、もし嘘ついていたら明日から味噌汁の具はないと思ってよ」

「え゛っなにそれ」

「名の通り味噌の汁出すから。…それじゃ」

「……すごい…おそろしい脅迫…」

「安心しろ主。そんなことは俺がさせん」

「いや…でも厨房組の結束は強いから…」

「俺の味噌汁から具を横流しすれば良いだけだろう」

「いやそれは流石にはしたないよ巴…卑しいし…はーびっくりした」

「……」

「…まだ近くにいるなあ。面白いね、江は」

「顕現も殆ど同時期だったからな。ここでも随一の結束力だろう」

「藤四郎一派も強いけど、もはやあそこはチームだからなあ。…びっくりして眠気吹っ飛んだな…」

「それは良かった。ところで主、俺から一つ注文があるんだが」

「ん?」

「外出をしたい。付き添ってくれ」

「そ、れはいいけど…珍しいな」

「欲しいものがある。…それと、主と外出するのは決まって仕事関係ばかりだったからな。プライベートでの外遊をしたい」

「はあ…そう、だな。うん、分かった。じゃあ日取りを決めよう。…の前に江の三人は離れたよ。出ておいで」

「おらぁ!」

「ぶっは!酸素!」

「おーおーこれはこれは」

「巴形!お前よくも!この俺を!驚かせてくれたなあ!」

「そこなの?」

「そこか?」

「同じタイミングで似たようなツッコミをくれるな!屋根裏禁止令出されてからこっち押し入れで我慢しているんだぞ俺は!」

「鶴丸実は猫丸なんじゃないの?南泉と呪い入れ替わった?」

「俺は呪われてない!」

「そう言えばそうだった。…で、そこで四つん這いの豊前くん」

「はー…え?なんだ?俺?」

「そうお前。…膝枕争奪戦、誰かに仲立ち頼めば?俺は入れないけど、石切丸とか喜んでやってくれるよ」

「いや…そこまで重い話ではないんだけどな…」

「割と目がマジだったけど」

「…俺の膝ってなんか特別なのか…?」

「いや知らんけど。…どうなの?」

「知らん」

「知らんなあ…まあでも、同じ刀派にはグッとくる膝なんじゃないのか?あの感じを見るに」

「…精神安定剤的な?」

「かもな。…ところで俺的には巴形とのでぇとの約束について物申したいんだが?」

「俺と主の話だ。口を挟むな」

「そうはいかないんだな!俺だって主とでぇとしたいんだ!」

「お前の欲求など知らん」

「……あっちはあっちで勝手に盛り上がりだしたな。それで、豊前」

「…おう」

「一時の退避はできたけど問題はそのままだ。膝枕するしないは任せるけどあんまり揉めるようなら言ってくれ」

「……その、主」

「ん?」

「…ちょっと俺の膝で寝てみてくんねえか…?」

「……」

「待て、主の頭は俺専用だ」

「普通膝の方じゃないのか…?」

「巴時々変なこと言うから…まあいいけど、いっつもどうやってるんだ?」

「えっと…俺が足伸ばして、その太股に頭乗せる感じ」

「ふうん…じゃあ、まあ」

「……ど、どうぞ…?」

「何で微妙に緊張してるんだよ。…じゃあ、失礼っと」

「……どうだ?」

「んー普通、だけど…ん?」

「…いつもはこうやって乗ってる頭撫でてんだ」

「あー…これは確かに気持ちいいな……っと豊前手退けろ!」

「え?」

「あ、やばっ」

「主!…ほらやっぱり!絶対いると思ったよ、豊前!」

「桑名…!」

「りーだー!…って、あ…!よもや…主も…!」

「いやいやいや違う違う土俵に乗せないで」

「そっか…貴方も、豊前の膝を…」

「待って待って話聞いてお願いだから勘弁して桑名俺の味噌汁…」

「具はないよ。諦めて」

「う゛…っ味噌汁…!」

「…りいだあ…何故逃げたんですか?私達が欲しがりすぎたんでしょうか…?」

「いやまあ、それもあるっちゃあるけど…」

「膝枕チケット制はお気に召さない?じゃあ報酬制にする?僕は作物貢ぐしかできないけど」

「僕は…血…しか…?」

「別に見返りは望んでねえよ。お前らが喜ぶなら、膝だっていくらでも貸してやる。…でもその、あんまりやってくれって言われると戸惑うっつーか…」

「りいだあ…」

「…あと、たまには俺も膝枕されたいっていうか…」

「よし、おいで」

「僕も…豊前なら良いよ」

「わ、私も!狭い膝ではありますが!」

「お前ら…」

「……解決?」

「っぽいな」

「主、それならば先程の話の続きだ。俺とのデートの話だが」

「あ゛!でーとって言いやがった!やっぱそうじゃねえか!」

「うるさい」

「……えっなんでこっち見てんの豊前。前見ろ前」

「主、巴とデートすんのか?」

「いやデートというか、買い物というか。こっちは気にしなくて良いよ。そっちの話をどうぞ」

「…巴とデートするなら俺との遠乗りもいい加減考えてくれよ。専用のヘルメットまで用意したってのに全然ついてきてくれねえじゃねえか」

「いやそれは…」

「なあ、主」

「ええ…なにこれ…く、桑名…」

「約束を破るのは良くないよね」

「うわー江の結束!待って膝枕の話まとまったの?俺の話してる場合じゃなくない?」

「まとまった。次は主の話だ」

「…というか元々俺誰かと出かけるのあんまり好きじゃないんだけど…」

「なに?聞いていないぞ」

「いや巴には言ったよ。顕現した一番最初に、俺は一人で動く方が好ましいって」

「…そう、言われればそうだな。…だが俺はずっと主と行動を共にしてきたぞ」

「それは仕事だったから」

「仕事…」

「…は!これは所謂…修羅場!」

「篭手切、しっ。面白いから黙っておこうね」

「修羅場…血なまぐさくて良い響きだね…」

「…そうか、今までの同行が全て仕事ならば尚更プライベートでの同行を望む」

「…だから、それはいいけどさ…」

「じゃあ俺との遠乗りもだな。予定組むぞ。先々入れとかねえと誰に掻っ攫われるか分かったもんじゃねえ」

「………」

「君が色々な奴に色目使うからこうなるんだぞ!」

「色目なんか使ったことないよ…なんだよこれ…」

「と言うわけで俺は外出とは言わないから今度屋根の上で日向ぼっこしないか?」

「鶴丸お前も…ってそれはいいな…楽しそう」

「だろう?天気も良いし最高だと思うんだ」

「おお…何なら今からでも」

「主、逃げようとするな」

「そうだぜ。まずはけりつけてからだ」

「…おかしい…何で俺が責められてる…」

「…なんだか可哀想になってきたから味噌汁の具は許してあげるよ」

「桑名!ありがとう!」

「うん。だから豊前の頼み聞いてあげてよ」

「う、うん」

「…主も、大変なんだなあ…」

「修羅場っていいね…」




薙刀極の情報に小躍りして書き始めたのになんか増えました。
巴は一体どこに修行に行くのだろう。





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