∈でーえむえむそうこ∋

0505 剪mらぬ誰そ彼5






「……うん…?」

「……」

「……お…ああ…通りでパンツきつかったのか…」

「……あるじ…?」

「太鼓鐘、戻ったよ」

「え…?……あっ」

「丈合わなさすぎて超面白いことになってるなこれ。…とりあえず着替えよ」

「……主だ…」

「ん?…よいしょっと…久しぶりに制服着るな…」

「……あ、主!もういい?もう抱きついてもいい?」

「うん、いいよ。…おっとと」

「やった…!主が帰ってきた!」

「いや今までもここにはいたんだけど…まあ、帰ってきた…のかな」

「えへへへ!…って!にやけてる場合じゃなかった!みっちゃんたちに知らせねぇと!」

「そうだそうだ。…着替え終わったし、行こうか」

「おう!」

「…ん、なんだ、戻ったのか」

「ああ、巴。おはよう」

「おはよーさん、巴!」

「おはよう。…体に違和感はないか?」

「ないよ。至って普通。…あーでも、この目線の高さは久しぶりって感じ」

「なるほどな。…自室で眠るようにしていて良かったな」

「本当に。危うくつんつるてんな格好で本丸歩くとこだった」

「それはそれで見てみたい気もするが…」

「おい」

「本気だぞ」

「そこは冗談だって言えよ…とりあえず、光忠達に報告に行くんだ」

「そうか」

「…なんか巴、ちょっと嬉しそうだな?」

「…そう、見えるか?」

「なんとなくだけど。主も、そう見えねぇか?」

「……」

「……」

「……ちょっとよくわかんないっすね」

「だそうだ」

「えええ!あんだけラブラブしてんのに!」

「ラブラブはしてない」

「普通に過ごしているつもりだが」

「無意識!?無意識でいちゃついてんのか!かー!それはそれでなんかムカつくなあ!」

「まあまあ。…さて、行きますか。ついでに朝飯のメニュー確認しよ」

「お!そうだそうだ!俺魚食べたいなー」

「魚かーそう言えば最近食べてないね」

「肉もいいんだけどさあ」

「とりあえず俺は腹一杯食べたいな」

「胃が小さくなったと嘆いていたしな」

「そう!満足いくまで!食う!」

「朝から飛ばすねー主…吐くまで食うなよ?」

「うん」





「…………」

「だから俺言ったじゃん…なんでそんな勢いよく食ったんだよ…」

「……」

「気持ち悪くて喋るのも辛いみてぇだな。…まあ、なんにせよ元に戻って良かったさ」

「本当に遡行を控えるようになったら戻ったね…こんのすけが言っていた説が当たりだったのかな?」

「それはわからねぇが…全く無関係でもなさそうだ。大将、体は戻ったが出陣に付き合うのは少しの間控えておこうや。また体が縮んじゃたまんねぇだろ」

「………」

「はは…凄く頷いてる」

「………」

「わ、主!立って大丈夫なのかよ?どうしたんだ?」

「……っあー…ちょっと、お礼参り…」

「ど、どこに喧嘩売る気だい!?」

「おっとカチコミか!」

「そっちじゃなくて…正しい意味での。山伏とか、鶴丸とか。熱出したとき見ててもらったから」

「ああ、なるほど…」

「つまらん」

「大丈夫か…?俺これから厩舎行かなきゃだからついて行けないけど…」

「大丈夫だよ。心配ありがとう、太鼓鐘」

「おう…」

「…何か異変を感じたらすぐ俺っちを呼べよ?いいな?」

「わかった。…じゃあ、いってくる」

「うん、気をつけて」

「……なんか、でかい大将に戻ったはずなのに…どこかあの幼さを感じちまって、態度に出るな」

「わかる気がするよ、薬研くん…」





「…あ、いた。山伏!」

「む!主殿!どうされた?」

「いや、どうもこうもないんだけど、この間熱出したときのお礼をちゃんと言えてなかったと思って」

「む…?そうであったか?」

「俺の中ではまだちゃんと言えてない。…あの時は本当にありがとう。山伏がいてくれたから安心できた」

「カカカ!左様であるか!主殿の役に立てたのであれば、拙僧満足である!」

「…山伏もちょっと父さんに似てるから、前からなんか隣にいると安心すると思ってたんだ」

「ほう…父君に」

「容姿とかじゃなく雰囲気かな。まあごつくてデカいってのも似てるんだけど」

「筋骨隆々であったのだな!」

「結構ね。…だから山伏が良ければまた一緒にゆっくりさせてほしい」

「なにを今更。拙僧は主殿の誘いとあらばどこにでも馳せ参じようぞ!」

「いつぞやは三日月の爺さん引き取ってくれなかったけどな…」

「時と場合による!カカカカカ!」

「ったく…。もう少し様子見て問題なければ、一緒に山籠もりしよう。ずっと我慢してくれてるだろ?」

「!」

「本丸のこと気にかけて極力離れないようにしてくれてたこと、光忠や薬研達も感謝してた。…だから」

「…気遣い、感謝する」

「こちらこそ」

「そうとなればどの辺りへ向かうか決めておかねばな!…折角だ、景色の良い場所を目指そう」

「空が近い場所がいいな」

「うむ!あい分かった!…楽しみにしておいてくれ」

「うん。…引き留めてごめん、国広兄弟で鍛錬?」

「そうなのだ!兄弟全員の予定が合ったのでな!…では、失礼する」

「怪我には気をつけて。……で、鶴」

「……うーん…さすがに木の上ってのは芸がなさ過ぎたか」

「そこはもう清光が拗ねて登った場所だからな。足場が多くて行きやすいんだろ?」

「そこまでバレてたとは…残念。よっと」

「…鶴も、俺のことずっと気にかけてくれててありがとう」

「当然のことをしたまでだと思うけどなあ…今までと大してやっていることは変わらなかったしな!」

「なんとなく気配はずっと感じてたよ。本丸内にいるときは屋根裏や屋根からこっち見てたろ」

「げっそんなとこまで…!うーん…詰めが甘かったな…」

「俺の索敵能力をなめてもらっちゃあ困るよ」

「そうだったな…幼くなろうが中身は変わらないって散々言ってたしな…」

「…ふざけつつもいつも本丸に気を張り巡らせてくれてること、本当に感謝してる」

「……よせよ、そんな、改まって」

「鶴丸、ありがとう」

「………お、おう」

「へへ、照れてる」

「照れてない!爺をからかうんじゃないぞ!」

「えー耳赤いよ」

「赤くない!」

「ほんと?ちょっと髪上げて見せてよ」

「ばっ!やめろって!君そういうとこだぞ!素直に礼だけ言っておけばいいものを!」

「どうせそう言う男でーす。…ほら、なんか頬まで赤み増してきた」

「…っ!」

「…とりゃっ」

「うわ!…わ、わー…」

「熱出して寝込んでるときにそう言えば鶴丸を抱きしめたことあんまりなかったなと思ってて。体が戻ったらやろうと思ってたんだ」

「………っ」

「…横抱きならいけると思うけど…」

「いいいいや!それは!俺の男としての矜持がな!」

「そっか。…じゃあハグだけ」

「……」

「…普段小さい子ばっかりにしてるし、言われなきゃ俺もやらないから。鶴丸ももし何かあって寂しくなったら言ってよ」

「……わ、わか、った…」

「…ん、おわり。お時間とらせました。…じゃあ、次行ってくる」

「おう…いってらっしゃい…」

「光忠がずんだ作るとか言ってたから、後で厨房覗いてみて」

「分かった……」

「………おい、鶴丸?」

「………伽羅坊…」

「…どういう表情だ、それ」

「俺は……どんな顔してる…?」

「困惑と歓喜、か?それが混ざっている」

「……は、はは…」

「……?」

「…俺、おかしくなっちまったのか…?」

「……大丈夫か…?」



伊達のセラピスト大倶利伽羅。
山伏と星空を眺めたい人生だった。






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