∈でーえむえむそうこ∋

0410 剪mらぬ誰そ彼3





「……うー…」

「おお、変わらず早起きであるな、主殿!」

「山伏…おはよ…」

「うむ!おはよう!」

「……都合良く寝て起きたら戻ってるとかないよねえ…」

「…体に違和感などはないか?」

「それはないよ。…まだ自分の大きさには慣れないけど」

「カカカ!それは仕方がないことではあるな!」

「うん…」

「…違和感はないとのことだったが…どうやら体調はあまり芳しくないようだ」

「ん?」

「主殿、失礼」

「……どうしたの、急に抱き上げて」

「拙僧の額に、主殿の額を合わせてくれぬか?」

「……こう?」

「うむ!……」

「……」

「…やはり…熱いにしても熱すぎるな」

「……俺もしかして、熱ある?」

「そのようだ。…ああ、丁度良かった。兄弟!」

「ん?…どうした兄弟。…主も一緒か」

「山姥切…」

「……どうした、目が虚ろだぞ」

「主殿は熱を出してしまっている。拙僧が部屋まで連れて行く故、兄弟は光忠や薬研達に言伝を頼めぬだろうか」

「分かった」

「……ごめん…」

「なに、気にするな!これもまた我らの仕事であろう。…急な変化に体が追い付かなかったのであろうな。…可哀想に」

「…山伏…」

「拙僧はここに居る。…安心召されよ」

「……ん」





「…解熱薬は飲んだ。食事も摂れたし、このまま安静にしていれば大丈夫だろう」

「そ、そうか…!」

「よく眠ってるから、そっとしておこう」

「…とりあえずは、一安心であろうか」

「ああ。ありがとな、山伏。早めに気付けて良かった」

「なに、主殿が普段通り早起きをしていたお陰である!…発熱していてもそれを守ろうとするのは、あまり良いことではないのだがな…」

「主…」

「長谷部、行くぞ。朝食で全員に審神者接触禁止の御触れを出したんだ。俺達だけが例外なんて都合の良いことは言えねえぞ」

「分かっている…だが…」

「…拙僧で良ければ、中で主殿を見守っておくが…」

「なん…!なら、俺が!」

「言うのは勝手だが、どちらも大将を起こさねえ自信があるのか?」

「ぐ…!」

「身動ぎせず、気配を絶つのもまた修行。…主殿の睡眠を阻害せぬよう佇もう」

「……そう、だな。山伏なら、いけるか」

「うむ、任せてくれ」

「…恐らく屋根裏に鶴丸も潜んでいる。もし何かあれば上に合図を送ってくれ」

「カカ!相も変わらずであるな!…了解した。…すまぬな、長谷部。ここは、拙僧に譲って欲しい」

「……っああ…」

「…では、拙僧は空気となろう。何か変化があればすぐに伝える故、宜しく頼む」

「ああ、頼んだ」

「……」





「………」

「……う…ん、んん…?」

「……」

「……お…山伏…?」

「…うむ、おはよう主殿」

「おはよ…って、これ夕日…?」

「そうだな。もう日が落ちる時間である」

「うわ、結構寝てたな…」

「絶対安静であったからな。…少しは楽になったか?」

「うん。…氷枕完全に溶けちゃったな…」

「何度か変えはしたのだが…」

「え、山伏が?」

「うむ。…主殿が気持ちよさそうにするのでな。…ただ、体温のせいかあまり長くは冷やせなかったが…」

「そっか…ありがとう。すごく気持ち良かった。頭痛かったし、助かったよ」

「それならば、良かった」

「…俺、降りて良いかい?」

「ああ、そう言えば」

「…つるまるー」

「よっと!…驚いたかい?」

「だから天井裏…もういいけどさ…」

「…ちょっと失礼するぜ」

「……どう?」

「…朝よりは大分落ち着いたな。体温計で計ってごらん」

「ん…」

「起きるか、主殿?」

「うん」

「であれば拙僧が起こそう。…そのまま背もたれにしてくれ」

「至れり尽くせりですねえ」

「カカカ!特別待遇である!…どうだ?」

「へへへ、楽です。…よし、計ろう」

「……」

「そんな辛そうな顔で見ないでよ、鶴丸。…ん、鳴った。…おー」

「平熱…か?」

「より少し高いくらいかな。…でも大分ましになった」

「そうであるか!」

「はー…良かった…」

「…よいしょ、水飲も」

「ああ、注ごう。…ほら」

「ありがとう」

「…主殿はもう少し休んでいてくれ。拙僧は薬研を呼んでくる」

「うん。何から何までごめんね」

「なあに、この程度。また拙僧の修行に付き合ってくれれば、それで良い」

「喜んで湯たんぽになるよ」

「カカカカカ!魂胆までバレているとは!流石主殿であるな!…では今少し、待っていてくだされ」

「うん」

「………」

「…鶴丸?」

「……姿のせいか、君の弱った姿はどうにも…くるな…」

「子供が病に臥せってたらね。小さい者が苦しむ姿ってどうしても威力あるから」

「…冷静に分析されるとそれはそれで何というか…」

「俺は幼子ではない。…でも思っていたより体力も免疫も落ちてるみたいだ。吃驚した」

「…そうだな」

「…これは真面目に早く元に戻らないと」

「…今夜も寝相でバトルだと思っていたんだが…無理そうだな…」

「何故?何故寝相で戦いたがる?」

「いや、あれはあれで無意識下の戦いって感じで楽しいだろ?」

「いや…俺は全然楽しくないんですけど…」

「主と無邪気にわちゃわちゃしたかった」

「わちゃわちゃ…」

「大将、入るぜ」

「おお、薬研」

「…おっ、目がしっかりしたな。…よしよし、薬もちゃんと効いたみてえだ」

「うん」

「夕飯はどうする。ここに持ってくるか?」

「いや、大広間に行くよ。…でもその前に汗流したいな…」

「シャワーで済ませよ。…山伏、付き添ってもらえるか?」

「うむ!拙僧もさっぱりしたいと思っていたので好都合だな!」

「あ、じゃあ俺も入ろうかな。髪に埃付いてるし…」

「今回はスルーしたがいい加減屋根裏に篭もるのはやめろ、鶴丸」

「いやこれが…ハマっちまうと楽しいんだ!」

「何がだ。…まあ、大将のこと頼んだぜ」

「ああ!」

「さて、と」

「…すげえナチュラルに…山伏に抱き上げられた…」

「む?嫌であるか?…嫌ならば降ろすが…」

「……嫌じゃないです…」

「うむ!それならば良かった!では、行こうか」

「俺が着替えを持っていこう。先に風呂場に向かっておいてくれ」

「有り難い。…ではまた後で」

「……晩飯は消化に良いものにしてもらってるからな、大将!」

「うん、ありがとう!…うどんかな?」

「うどんであろうなあ。…拙僧、卵を乗せたうどんが好きである」

「俺も月見うどん好きだよ。…生姜いっぱい入れよ」

「生姜…ほう」

「美味しいよ、生姜。体温まるし」

「そうであるなあ…拙僧も入れてみるか」

「うん、七味も良いけどね」

「カカカ!夕飯が楽しみであるな!」

「だね。…お腹空いてきたなあ」



山伏と並んで天ぷら蕎麦を食いたい人生であった。





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