∈でーえむえむそうこ∋

0211 剞ツ天の投石






「うお!敵の刀装も遠距離攻撃系だ!」

「なまいきです!さっさとつぶしましょう!」

「ああ…刀装展開だ!」

「………」

「…うっわ、なにあれ。あっちの投石兵ノーコン……あああ主!避けて主!」

「え?…あいだっ」

「あるじぃー!」

「鱠尾うるさいぞ!なにか……は?」

「うわー!どうしよう長曾根さん!石が主に!石が主に!えっと、まずは…とっとりあえずさっさと斬り伏せる!」

「あ…主…!」

「…え?なにこれ…えっすご…ウケる」

「全然ウケないぞ主!」

「……あ、血が」

「……っ!」

「長曽祢虎徹、いまはまえをみなさい。鯰尾のいうとおりです。めのまえのてきをせんめつし、いそぎもどりますよ」

「…っああ…!」





「あっはっは。あっはっはっはっは」

「おいおい…本気で大丈夫か大将…?」

「いや、石ぶつけられるとか面白すぎて…へへへ」

「…壊れてるぞ」

「へっへっへっへ」

「誰か!誰かー!こんな大将と二人っきりとか怖すぎるんだが!」

「…手当終わったか?」

「長曽祢!良いところに!」

「?」

「大将が半笑い浮かべてるんだ!流石の俺も恐怖を感じる!」

「それは怖いな。…主?」

「へっへ。……はー…」

「お…?」

「……びっくりしたなあ」

「っ…!」

「大将…」

「ついこの間日本号に足手纏いになるんじゃないかって言われたばかりなのになあ。…油断してたなあ」

「…主…」

「ごめんな。俺のせいで途中帰還することになって。自分の番は終わったって気抜いてた」

「途中帰還については気にするな。大した問題じゃない」

「…にしても、戦場で気を抜くなとあれだけ言ってきた大将が…体調でも悪かったのか?」

「いや、ほんと、たまたまボーッとしてた」

「…そうか」

「弁解のしようもない。…改めて気を引き締めるよ。お前達が強くなってきていて、完全に油断してた。俺はただの人間で、脅かされる側なんだって忘れてた」

「……」

「いやでも面白すぎでしょ、スコーンって。あっはは!あっはっはっは!」

「はー…長曽祢、あと任せても良いか?」

「…ずっとこの調子か?」

「おう…相手にするのも疲れた」

「分かった」

「悪いな。…とりあえず大将、手当はしたがまだ傷は塞がってない。無理はすんなよ」

「はーい」

「分かってんのか…?」

「おれが見ておく」

「ああ、頼んだぜ。じゃあな、大将」

「ありがと、薬研。…ふふふ」

「まーだ笑ってら。…夕飯までには落ち着いてくれよな」

「……ふへへ」

「…主」

「…へへ…へ…っひ…っぅ」

「……そんなことだろうと思っていた。…主、抱き締めるぞ」

「ふ…っぅああ…う…っ」

「怖かったんだろう。思っていたよりも。…驚愕と恐怖とがない交ぜになって…訳が分からなくなったんだろう」

「…うああ…っあ…っ」

「…大丈夫だ。おれ達は生きている。…生きて返ってこられた」

「……っあー……」

「……」

「……覚悟をした上での負傷と、不意の負傷と、こんなに違うなんて…っ」

「それも頭を打ったしな」

「恥ずかしい…っお前等はいつも、こんな、覚悟して……っ俺だけビビって…ッ」

「恥ずかしくなんかない。死を恐れるのは、人として当たり前の感情だ」

「……っうう…」

「……ふふ、可愛いな、主」

「…泣いてる人間捕まえて…可愛いとか、普通に可笑しい…」

「ははは、それもそうだな。……傷、痛むか?」

「じんじんする。…頭部負傷とかほんと洒落にならない」

「石が小さくて良かった。…守ってやれなくて、すまん」

「守ってやれなくてって、無理だろ、あの布陣から俺を庇うのなんて」

「マジレスしないでくれ」

「…するよ。…出来もしないことを言うな」

「手厳しいな」

「……う…っつ…」

「…明日、病院へ行こう」

「…うん。一応検査して貰おう。…はー…」

「…手が震えているな」

「恐怖だ。…久しぶりに思い出した。これが死の気配か。…こわい」

「……」

「…長曽祢、擦り寄るのは良いけど、髭が痛い」

「ああ」

「……だから、痛いって…」

「主の頬はしっとりしているな」

「うるさい油分大目で悪かったな」

「……今夜、一緒に寝よう」

「え、それは別にいらない」

「…おい」

「別に眠るのは怖くない。もし今日眠って明日目覚めなくても、それは怖くない」

「主の怖いの観点はずれまくってないか?」

「俺が怖いのは不測の死だけだ。死ぬかもって予想した上での死はまだ平気だ」

「……おれが怖いから近くに居たい」

「それは知らん」

「このおおおお」

「いっだだだだ!痛いって!」

「一緒に寝ると言うまで離さんからな…」

「はあ?めんどくさ…」

「…主のそういう突然淡泊なところ、気に入らん」

「そうですか」

「……おれも泣くぞ」

「泣け泣け。泣くのは良いぞ。頭は痛くなるけどスッキリする」

「……」

「……いつだったかお前、俺の悲しむ姿も見たいって言ってただろ」

「…ああ。見せる気はないと、拒否されたな」

「うん、した。……なのにごめんな。こう、都合の良い時ばかり、甘えて」

「……」

「…不甲斐ない。…有言実行すらできない」

「おれとしては願ったりだがな」

「へっ。……ありがとう、長曽祢」

「どういたしまして。…と言うわけで共寝をだな」

「しっつこいなー…」

「拒否するなら髭をもっと擦り付けるぞ」

「うへえ…」



人類最古にして現役の武器、石。ダビデも愛用。
小学生の時分綺麗な石を拾って洗って大事に持ち歩いてましたね。今もまだあります。ツルツルしてる。





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