∈でーえむえむそうこ∋

0113 180の壁






「さて、それでは改めまして。大般若長光、歓迎の儀を行います」

「……ん、んん?歓迎の儀…?」

「うん、歓迎の儀」

「…俺を内番着に着替えさせて、何をしようと…?」

「組み手」

「……すまん、よく聞こえなかった」

「手合わせ」

「あー……手合わせ…?」

「頑張れー大般若さん!」

「主ー!景気よく行っちゃえー!」

「あ、貞ちゃんどっちの味方なの!」

「そりゃもっちろん俺は主推しだぜ!」

「裏切り者ー!」

「だってさあ、主が俺以外の男に屈するの見たくないし!」

「太鼓鐘に屈する予定ないんだけど」

「いやいや…俺がこうみっちゃんくらいに成長してさ?格好良く主を引き倒してさ?そして片手を差し出しながらこう言うのさ…御手をどうぞ、ハ」

「おい、もう始めて良いか?」

「あ、うん、いいよ正国」

「コラー!コラァアア同田貫正国ー!まだ俺が話してた最中だっただろうがー!一番の決めぜりふだったんだぞ!」

「知らねぇよ…ほら、アンタも構えろ」

「お、おお…いまいち状況を理解してないんだが…」

「光忠から俺の出自聞かなかった?」

「あんたが艦の付喪神と人とのあいのこってことは聞いた。屈強だってこともな。だけど俺と仕合をする必要はあるのかい…?」

「…大般若は多分精神的に成熟した状態で現界したからしっくりこないかもだけど、他の刀達の中には己より弱い、縁もゆかりもない人間に使役されることを是としない奴もいるんだ。…と言うか居たんだ」

「…ほう…だから、力関係で上位に立ち、その使役の正当性を表してるってのかい?」

「うん」

「……はあ…分かったよ。まあそれがここの習わしなら、ちゃんと通らないとな」

「理解が早くて助かる。…遠慮なしで、宜しく」

「了解」

「じゃあ、正国」

「おう。…両者構え…始め!」





「じゃあ、俺は行くからな。次こそ俺と手合わせしろよ」

「あはは、次な。ありがとう正国。…で、ごめん大般若。思いっきり叩き伏せた」

「はは…清々しいほどの威力だな…」

「痛むところある?綺麗に受け身取ってくれたから、骨は無事だと思うけど」

「…うーん…多分、大丈夫だ。…しかし本当に、強いなあ」

「まあこのくらいしか特技らしい特技ないから。…うお、っと」

「なーに言ってんだよ!艦載機飛ばしたり、索敵したり、主出来ること一杯あるだろ?」

「太鼓鐘…背中乗るな」

「やーだ!」

「ったく…」

「…あんたは本当に色々な奴に好かれているな」

「常々思ってるんだけど、多分立場上そうしておいた方が都合良いからだと…」

「んな!主もしかして俺の愛を疑ってんの!?」

「光忠、こいつ何か言ってる」

「主、ちゃんと貞ちゃんの話聞いてあげて」

「……はーい」

「俺は主のこと好きだし、それは主が審神者じゃなくても変わらない。それに好きじゃなきゃ何度も何度もこの本丸に鍛刀されてない」

「…それ俺以外の審神者にも言ってるよきっと」

「それは俺じゃない太鼓鐘貞宗だ!ここに居て、主のことを好きだって言ってる俺は俺だけなんだから、そこから目を逸らさないでくれ!」

「ふーん」

「…おやおや。…主は随分と疑り深いんだな」

「人から向けられる感情をどうにも素直に受けとめられないらしくて。…ね、主」

「…うるさい」

「もう。…僕だって主のこと好きだよ?放っておけなくて、心許なくて、目が離せない。そんな君がね」

「それ好きとかじゃなくて単に不安なだけでは…」

「そうとも言うけど。…でもそれだけじゃない」

「……なんか、こんな本丸です」

「ああ、よおく分かったよ」

「…太鼓鐘、とりあえず背中から降りて」

「主が俺のこと好きって言うまで離れない」

「はいはい好きだから」

「適当!」

「…動きにくいから、引っ付くなら前からにして」

「分かった!」

「……太鼓鐘は秋田より大分大きいからな…よいしょ」

「…子供扱い、嫌だ」

「…うん」

「……ふふ」

「…大般若?」

「いや、すまんすまん。…手合わせ中はあんなに鋭かった雰囲気が、ここまで柔らかくなるものなのかと思ってな。…面白い子だ」

「………」

「…おっと、すまん。つい手が…」

「…別に、頭撫でられるのは嫌いじゃないから」

「マジで!?」

「俺より背がでかい相手からに限るけどな」

「うぐう…!」

「だから今まで僕が撫でても何も言わなかったのか…」

「…父親を思い出して、少しだけ安心するんだ。この年にもなると…と言うかこの図体じゃ中々人に頭撫でられることってないから」

「主結構背があるもんね」

「三日月の爺様と同じだよ」

「太刀レベルかー」

「…それなら、今後も遠慮なく撫でても良いってことかな?」

「…まあ、時と場合によるけど」

「分かった。…中々可愛い子じゃないか」

「なんか言い方がいやらしいな、大般若」

「そうかい?」

「もしかしなくても長船ってみんなこんな感じなの?」

「こんな感じって、どんな感じ?」

「無闇矢鱈に人を口説く」

「い、いやあ…そうじゃないと思うけど…」

「俺も別に口説いてるつもりはないけどなあ…主はそうだな…可愛い、息子って感じかな」

「………」

「……どうした?」

「…い、いや、なんでもない。…俺ちょっと顔洗ってくる」

「ああ。……何か気に障ることでも言ったかな?」

「ううん。あれはきっと…照れ隠しだよ」



大般若さんのパパみと言うか父性というか…。
貞ちゃんだっこしたままちょっとパニック起こしてる審神者であった。
ところであずき来ません。





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