∈でーえむえむそうこ∋

0907 剴V下五餅





「……雨だな」

「ああ、雨だ」

「…で、お前はいい加減にしてくれないか」

「何がだ」

「……手合わせはしない。お前との決着は付いた」

「まだだ!まだ俺は負けていない!」

「負けただろ…どう見ても畳に背を付けてたでしょうに…」

「まだ一回だ!ここから俺が盛り返す!」

「いやいや…」

「何おう!俺を馬鹿にしているのか!俺は大包平だぞ!刀剣の横綱と名高い!」

「刀を持ったお前は確かに強いよ。と言うか、俺は刀を持ったお前達には絶対に勝てないから、そこで満足してよ」

「しない!刀を手にせずとも俺は!」

「……元気なこった」

「主!」

「……」

「…お前も俺を馬鹿にしているのだろう。天下五剣ではない、俺を」

「お前の言う天下五剣は深夜徘徊したり鶴丸の落とし穴に落ちたり散々だけどな」

「…なに…?」

「三日月なんてよくふらふらしてるよ。すぐお菓子隠すし、そして忘れて腐らすし。あと何故か俺がこっそりおはぎを食おうとするとやってくる」

「どんな能力なんだそれは…」

「普段の戦闘じゃ大して偵察もしないのにね。……ああそうだ、大包平」

「…なんだ」

「おはぎ。あんこときなこどっちが好き?」

「は?……き、なこだが」

「お、それは奇遇。…俺もきなこ派なので…あったあった」

「……」

「おひとつどうぞ」

「……お、俺はこの程度で絆されは!」

「ふむ、ならばそれは俺に譲ってはくれぬか?」

「っ?!」

「あ、きた。…お前ほんと目敏い…鼻聡いのか?」

「ふふふ…俺の見えぬところでまた甘味を食おうとは…主も酷い男だ」

「はいはい。三日月のはこれ。どうぞ」

「…あんこだ」

「あんこだよ」

「…俺もきなこがいい」

「知らんなあ」

「主、交換しよう」

「嫌。俺きなこ派」

「俺もだ」

「そうですか」

「…大包平、説に頼む。俺のおはぎと交換してくれ」

「……これが…天下五剣…?」

「天下五剣?…まあ、そう呼ばれることもあるが、俺は今きなこが食べたい三日月宗近だ」

「………俺は一体何と戦っているんだ…」

「いやほんとにね。…ん、おはぎ食べるならお茶も欲しいな。…よし、おはぎ持って台所へ行こう」

「主、きなこ」

「お爺ちゃんはほんっとうにうるさいな。分かったから。俺のきなこあげるからおはぎ持って立って。ほら大包平も」

「あ、ああ…」

「ふふふ…素直にきなこを譲ってくれる…大好きだぞ主」

「甘味の次にだろ。三日月ランキング忘れちゃいないからな」

「…………」

「おいそっぽ向くな。羊羹よりも最中よりも、きなこのおはぎよりも下だもんなぁ俺は?」

「……ははは…」

「…これが天下五剣が一振り、三日月宗近だ」

「………」

「物凄くコメントに困っている顔をどうも。さ、行こう」





「は?ずんだが最強でしょ?」

「分かった。分かったから。こっそり買ったのは謝るからそんなにガチギレしないで下さい光忠さん。痛いです。掴まれた肩がミシミシ言ってます」

「僕のずんだが、最愛だろう?」

「大好きです。ええ、この世の甘味の頂点ですとも」

「宜しい。…分かってくれればそれで良いんだよ、主」

「……ハグがこんなに怖いなんて…」

「みっちゃんガチギレじゃん…こわあ…」

「…光坊はなあ…こういう所あるから…」

「……おい光忠、湯が沸いた。…急須に入れるから少し避けろ」

「ああ、ごめんね伽羅ちゃん。…あ、ほらほら!そこの二人もどうぞ!丁度伊達勢総出で作っていてね。あとでみんなに配るつもりだったんだ、ずんだ餅!」

「……み、三日月宗近、あれは天下五剣ではなかったよな…?」

「うん?そうだな、燭台切光忠は違ったと思うぞ」

「…恐ろしい、気迫だった…」

「うむ、本当に」

「……」

「ああほら、光坊がキレるから主が借りてきた猫にくるまっちまった。ほら主、俺のずんだ餅食ってみてくれ」

「………おいしい」

「お!そりゃ良かった!……何か中に包もうと思ったが、今日はやめておくかな」

「…鶴丸、隣に居てくれ…今日の光忠は怖い…」

「ん?そりゃ構わんが…」

「…主はすぐ鶴さんに頼るよなー」

「嫉妬か?」

「焼き餅って言ってくれよ」

「そんな可愛らしい感情じゃないだろ」

「…そりゃそうだけど…」

「……あとは俺がやる。…邪魔して入るなら早い内が良いぞ」

「邪魔って…まあそうだよな…ありがとう、伽羅ちゃん!行ってくる!」

「ああ。……それで、何か用か三日月宗近?」

「いや、気遣いができる刀は大変だなと思ってな。…あとできたてが食べたい」

「………ほら」

「うむ、ありがとう」

「……主、その」

「ん?」

「……これらを食べ終わったら、やはりもう一度だけ手合わせをしてくれ」

「えええその話まだ続いてたの…」

「あの時は小竜景光と一緒に一気に投げられたからな。改めて、きちんと向かい合いたい」

「……ん、分かった。そういうことなら、ちゃんとやろう」

「…ああ!ありがとう!」

「…だから、あんまり食べられないんだよ、なー…」

「は?」

「…大包平、食べた後ちょっとだけ休憩させて…」

「お、おう…」



あずきではなく小竜が来てくれました。
長船ェ!!!





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