∈でーえむえむそうこ∋

0905 剞lの身なれば





「ぐぅ…っこん、の…!」

「…本当に…っ足ばかり…狙うな!」

「定石だろう、それが!」

「……っ後ろか…!」

「遅い!足と、ッたぁ!」

「…っぅ!」

「主の勝ちだ!…相変わらずだな。あんたと薙刀との仕合は面白ぇ」

「そりゃ、どうも。…正国は本気のぶつかり合いなら誰と誰のでも滾るだろ」

「いや、あんたのは大概皆本気でかかってるから、なお面白い」

「ふうん」

「…はあ…」

「巴、立てるか?…ごめん思い切り倒した」

「仕合に謝罪は不要だ。…足も何も………」

「…え、まさか」

「………?」

「え、待って、付喪神って怪我の概念あるの?」

「そりゃあ…時間遡行軍に切りつけられりゃあ大怪我も負うしな」

「…と、巴…?」

「…足首が…変だ。違和感がある。力を込めると、痛い…?」

「…うん、捻ってるわ、それ」

「ひねる…?」

「体重をかけたら足首から刺すような痛みが走らない?」

「……ッ…ああ、そうだな…」

「……うわあ…ま、正国、御手杵呼んできて…」

「おう」

「……ごめん巴…怪我させた…」

「…怪我…」

「……けじめだ…俺の腕折ってくれ…」

「急に何を言っている」

「上腕でも前腕でも良いよ」

「主」

「申し訳ない…」

「…勝手に話を進めるな。この怪我は俺の不注意や鍛錬不足によるものだ。お前のせいではない」

「……」

「主。…そんな顔をするな」

「…とにかくテーピングで固定しよう。…ん?もしかして普通に手入れを行えば治るのか…?」

「…どうだろうな。別に刀身に傷を負ったわけではないからな…」

「…かといって生身の人間と同じやり方で回復するのかな…ああでもしないよりはマシか」

「……」

「ちょっと救急箱取ってくる」

「ああ…」

「…よーっす…なんか巴形が怪我したって呼ばれたんだけど…」

「あ?あいつはどこ行った?」

「主なら救急箱を取りに行った」

「そうか。……腫れてきてんな」

「はー…やっぱ俺達のこれって人の体なんだなあ…今更だけど」

「…不便だな」

「まあな」

「まあでも、人の体じゃないとメシも食えないし昼寝もできないし、何より主と触れ合えないしな?」

「…御手杵、お前も主のことを好いているのか?」

「好いてるかどうかは分かんねえけど、主と話したり遊べなくなるのは嫌だな」

「…そうか」

「とりあえずお前さんの移動は俺が付き添うよ。流石の主でも薙刀クラスの奴の介添えはきついだろ」

「背だけは立派だからな、俺達薙刀は」

「何言ってンだよ。そんだけ立派な体躯しておいて。嫌味か」

「そうだぞー正国なんてあともう10p身長があればーって…いてっ!痛いぞ正国!」

「お前は黙って介添えしてろ」

「ちぇー」

「戻った。…ああ、悪いな御手杵」

「いいえ。…っと、珍しく狼狽えてるな、主」

「そりゃそうだろ…この身で刀剣男士傷付けたのなんて初めてだ…」

「…俺がお前に初めて傷物にされた刀剣男士か…」

「言い方」

「巴形って面白ぇなー」

「……とりあえず巴は自室待機で。食事やらは部屋に持って行くから」

「…それは悪い。大広間まで向かう」

「足痛いだろ」

「構わん。…腹を裂かれる痛みよりはましだ」

「比較対象が可笑しい…」

「…とりあえずテーピングして様子見てみりゃ良いんじゃねえの?」

「あ、そうだ。…巴、足伸ばして。右か」

「………」

「とりあえず冷感湿布貼ろう。…少しひやっとするぞ」

「……」

「…よし。あとは固定して……うん、まあこれで一応応急処置は大丈夫だろ」

「おー手慣れてんなあ」

「俺も怪我多かったからな。…巴、どうだ?」

「……ああ、まだ違和感はあるが…先程よりはましになった」

「…良かった…」

「正直、足の痛みよりお前のその不安気な表情の方が堪える」

「…はは…そう言えるくらいなら、まだ良かった」

「…ああそうだ、笑っていろ。主には無表情か笑顔が一番似合う」

「無表情…」

「あれ善意?悪意?」

「知るか。…おい主、一度立たせてみろ。無理そうなら御手杵が働く」

「おう、俺が働く!」

「そうだった。…巴、手貸して」

「ああ。……っと…」

「……どう…?」

「…体重をかけると少し痛むが、立てないほどではない」

「そっか…」

「なので主の支えがあれば問題ない。騒がせたな、御手杵、同田貫正国」

「お、おう」

「…まあ、歩けるんなら上々だろ」

「…けどあんまり動かない方が良い。安静が一番だ。…とりあえず、大広間…に行く前に汗拭いたいな…」

「俺は風呂には入れないな…」

「…清拭しかないよな…」

「せいしき?」

「湯で濡らしたタオルで体を拭くんだ。…何もしないよりはマシだろ」

「…ああ、そうだな。頼めるか?」

「勿論。この状況は俺のせいだから。じゃあ一旦大浴場に行くか。湯が近い方が良いし」

「分かった」

「…それじゃあ…ごめんな御手杵、わざわざ呼びつけて」

「いや…まあ、何とかなって良かったよ」

「うん。正国も、ありがとう」

「別に。…それより、手貸さなくて大丈夫かよ」

「ああうん。ここから先は一人でやる。…気遣い感謝する」

「……おう」

「よし、行こう巴」

「ああ」

「………おわー…すげーな」

「…長谷部がキレ回すわけだな」

「だなー…」



なんだかんだと一年べったりだった分の距離感で本丸に居るので巴さん大分近いです。






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