∈でーえむえむそうこ∋

1026 剋O条会議






「さて…それでは第3回三条会議を始める」

「……おい、おぬしそれ」

「まず最初に、俺の部屋の棚からおはぎを捨てた者は素直に挙手しろ。今なら許してやろう」

「ああ、それ私だよ」

「む?俺も一度捨てたぞ?」

「ぼくもあまりにもあまりなおはぎならいちどまいそうしました」

「いや、ぬしら」

「なんだ揃いも揃って…お前達さては俺のことが嫌いだろう」

「じしつにおはぎをいくつもふういんしてはくさらせるあなたはきらいです」

「はっはっは、故意ではない」

「だから尚のこと質が悪いんだよ…」

「あとで食べるつもりかどうか知らんが、入れた場所と隠したことは忘れるな。カビが生えてはさすがの俺達も食えぬぞ」

「ぬしら!あれには触れていかぬ流れか?!」

「きつねうるさいです」

「小狐丸、静かに。主が起きてしまうよ」

「そこだ!ぬしさまが何食わぬ顔で宗近の膝を借りて寝ていることに何故触れぬ?!」

「あれくらい日常風景だからな」

「なに?!」

「おい、主はどうでもいいだろう。とにかく俺のおはぎだ。捨てるなら一声かけてくれ。もしかしたらまだ食えるかもしれない」

「やめてください、いやしい…」

「むっ、今剣から軽蔑の眼差しが」

「…これ以上可哀想なおはぎを増やすわけにもいかないし、宗近は持ち帰ったおはぎはすぐ食べること。ああ、羊羹や煎餅も同じだからね」

「俺の腹の許容量を超えても食べろと…?」

「誰もそこまでは言っておらんだろうに…まずその場で満腹感を得た上で何故更に食べようと自室に持って帰る」

「たくさんたべたい」

「ちのうしめつしてるんじゃないですか」

「先程から今剣がやけに俺に厳しいのだが。岩融、どういうことだ」

「そういうことだ」

「?」

「……ぬしさまと宗近は斯様に仲が良かったのか…」

「小狐丸も、主ばかり見ていないで宗近に何か言ってくれないかい。でないと三条部屋が腐敗臭に包まれてしまう」

「…そやつの菓子なら見つけ次第全て破棄しておる。一つたりとも腐らせはせぬ」

「さては昨日のみたらし団子が一晩にして消えたのも小狐丸のせいか…!」

「あ、それは俺が食いました」

「っ!」

「主…よもやお前だったとは…このこの」

「んあああ、やめ、やめれ」

「あれはまだ食べられるみたらし団子だったぞ。一体どうしてしまったんだ主よ」

「いや普通に食った…う、ちょ、ほっぺ引っ張るな!」

「よもや憎き相手に膝を貸していたとは…許すまじ、虎落笛千…」

「おじいちゃん俺のフルネーム覚えてたんだ…!」

「このこの」

「いや、ちょ、うひゃっ!くすぐったい!やめろ!」

「……で、さんじょうかいぎのぎだいはなんですか石切丸」

「ああ、うん。今日は…そこでちょっと羨ましそうにしている彼の歓迎会をしないかって話をね」

「む?」

「本人を前にして話すのか」

「彼の希望も取り入れないとね。同じ刀派とは言え私達は元無機物だし、好みの予想のしようがない」

「きつねですし、あげでいいでしょう」

「あげは確かに好きだが…」

「今剣、真面目に考えるぞ」

「はあ…」

「なーぜーたーべーたー」

「いや、前から宗近が食料腐らすって聞いてたし…っうは!あはは!」

「………」

「…うーん…何かを買ってくるより、主に何か催してもらった方が良いかな、これは」

「そのようだな」

「そうですね、そうしましょう。はい、きまりです。あるじさま!」

「ん?ぐっふ!」

「ぼくもいっしょにねます」

「…今剣…飛び乗るのはやめよう…」

「宗近などどうでもよいですから、きょうはてんきもよいですしえんがわでおひるねしましょう」

「んーそうね。…よいしょっと」

「ぬしさま…んっ」

「石切丸、小狐丸の歓迎会についてはまた今度話そう。…俺も色々考えておくよ」

「ああ、宜しく頼むよ」

「うん。じゃあ今剣連れて…岩融も一緒に一眠りする?」

「いや、俺は畑の様子を見る予定があるのでな。今剣を頼むぞ、主よ」

「了解」

「ではあるじさまをひとりじめですね!ついに!」

「ついに。…どこが一番日当たり良いかな…」

「このじかんならたぬきのへやのまえです」

「おお、詳しいなあ」

「ふふふ…ぼくはひざしとともにばしょをかえるぷろですからね…」

「どんなプロだよ…」

「……頭…」

「しかしごく自然に小狐丸の頭を撫でていったね、主は」

「満更でもない様子だった理由はこれか」

「……」

「見事なまでに絆され狐だと思っていたが…なるほど、言葉通り手懐けられたのだな」

「うるさい…私は、手懐けられたわけでは」

「事ある毎に撫でているなとは思っていたけれど…君の警戒を解くためだったのかもね」

「…何かを褒めるとき、必ずと言って良いほど撫でられる。…なんなのじゃ、あれは…」

「そしてそれが嬉しい、と」

「ううう嬉しくなど!嬉しくなどない…!」

「うーん、この絆されっぷり」

「主も策士よなあ」

「…嬉しくなどない…私は野生ゆえ…」

「呪文かな?」

「呪詛の類いだろう。己を律する呪いのような言葉だ」

「貴様等は…人のこととなると好き勝手言いおって…!」

「だって人のことだしね」

「うむ」

「カッ!」

「おや、狐っぽい威嚇」

「猫の類いではないか、今のは」

「喧しい!もう良いな!私は行くぞ!」

「ああ、うん」

「同田貫の部屋の場所は分かっておるか?ここを出て右だぞ」

「黙れ!知っておるわ!」

「……うーん、面白い」

「右に同じ」

「お前達も中々に性根が曲がっているな、はっはっは」

「好々爺のふりをしている君ほどではないかな」





「…ぬしさま…?」

「んー?どうしたの小狐丸」

「…今剣は寝ておりますか…?」

「うん。俺の膝全体を使って眠っております。硬くないのかな」

「それはもう…膝枕の域を超えているのでは…」

「膝抱き枕みたいな。…それで、どうかした?小狐丸も日向ぼっこ?」

「……ぬしさまは何故、私の頭を撫でるのですか?」

「気持ち良いから」

「毛並みを…気に入られて…?」

「あと背の高い男性はあまり頭を撫でられ慣れてないから、たまに撫でてあげると喜ぶって昔小耳に挟んで。俺も撫でられるの好きだし、小狐丸もそうしたら早く慣れるかなと」

「………」

「別に小狐丸に限ったことじゃないよ。山伏とか、あと槍の二人とか。人目につかないとこでやってるけど割と頭撫でてる層は多い」

「…わ、わたし、だけではなかったのです、ね…?」

「うん」

「……私だけではなかった…」

「良好な関係を気付くための努力は必要でしょ、上に立つものとしては」

「……」

「武力で捻り潰したとして、そのあともピリピリしてたらやりにくいし。人として付き合う以上は…ん?」

「わ、私を弄んだな…!」

「…へ?」

「皆に行っていることをさも私だけにやるかのごとく!特別扱いをされているのかと思っていたら!」

「え、ちょ」

「ぬしさまが私のためを思って思案した果ての行動だと信じていたというに!この…っこの…!」

「……」

「―っでも好きじゃ!」

「あっ、え?」

「慕ってしもうたのじゃ!もう戻れぬ!ぬしさま!責任は取ってもらいますぞ!」

「せ、せきにん…?」

「責任を持ってこの小狐丸を幸せにしてもらわねば!」

「…小狐丸の言う幸せの定義がよく分かんないけど…まあ努力はします」

「つまり結納宣言ですな?!」

「そろそろ長谷部が飛んでくるから黙っとこうか」

「私とぬしさまは刀と鞘。私の収まる場所はぬしさまの隣だと、高らかに宣言しましょうぞ」

「あれ、俺刀振るう方じゃないっけ?俺も刀の一部だった?」

「ささ、ずずいと。この小狐丸に全てを委ねてくださいませ」

「クーデレ怖いなあ。あと大丈夫だから吉行は抜刀しない」

「………」

「陸奧守吉行…」

「なんじゃこいつは。でれでれになった瞬間嫌に積極的になりゆう…」

「……近侍が、ぬしさまと私の邪魔をするでない」

「近侍命令じゃ。これ以上千に近寄るな。わしが許さん」

「……打刀風情が」

「新顔が偉そうに」

「ましょうのおとことやらですね」

「うっそだろ…」

「あるじさま、ばしょをかえましょう」

「そだね」

「ぬしさま!話はまだ終わっておりませぬ!」

「千、気にせず行け。ここはわしが片を付ける。…うちの本丸の流儀を、叩き込んでやるぜよ」

「貴様は黙っておれ!」

「短気な狐ぜよ…心配せんでもえいがよ。わしがぜえんぶ教えるきに」

「…やかましいかたなたちですね、ほんとうに…」

「行こ行こ。…吉行、格技場は空いてるから、好きに揉み合って」

「その表現はやめえ!なんか卑猥じゃ!」

「もみもみ」

「千っ!」

「ごめーん。…ふー…」

「あるじさま、こんどたんとうとわきざしでりょこうにでもいきましょう」

「…うん…」

「いあんりょこうです」

「お願いします、今剣様」

「おまかせください!」



頭を触られて嫌そうな顔をしない刀のみ時々撫でています。石切丸や太郎太刀あたりは嫌がりそうです。
小狐丸のカッ!は猫がキレた時にやるあれです。野生ゆえ。





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